コトコト

 蒸気が鍋の蓋を叩く音が台所に響く。

 いつもどおりの朝の風景。でも少し違う。それはお弁当も一緒に作っているという点。

 まあ、それはともかく朝食もお弁当も完成しましたし、祐一さんを起こしに行きましょう。

トントンッ

「失礼します」

 軽くノックした後に入室します。まあ、ノックで起きないのはわかっていますが、礼儀ですから。

「祐一さん、朝ですよ。起きてください」

「う〜ん、あと九千とんで七秒眠らせてくれ」

 いつもの事ながら、もしかして祐一さんは起きてらっしゃるのではないでしょうか。

 2.5時間も寝ていたらせっかく作った朝食が冷めてしまいます。

「だめです。起きてください。朝食が冷めてしまいますよ」

「うぐぅ、仕方無い。美汐がキスしてくれたら起きる」

 キ、キキキ、キス!?な、何が仕方ないんですか!?

「キッ、キスですか?」

「いやならベーゼでもよいぞ」

「一緒です!!」

 間違い無く私は真っ赤です。鏡を見なくてもわかります。

 訂正しましょう。祐一さんは絶対に起きています。確信犯です。

「起きていますね祐一さ…んっ、んんっ」

 講義の声を上げた私。しかし祐一さんはいきなり私の頭を抱え込み……

 

一周年記念SS〜甘く切なく麗かな〜

 

「うん、旨いぞ」

 相変わらず調子のいいことです。今私はとっても不機嫌なんですよ。わかってるんですか?

「どうした美汐?なにそんなに機嫌の悪そうな顔をしてるんだ?」

「機嫌が悪そうじゃないです。悪いんです」

 しかし祐一さんは私の言葉などには意も解さず、ニコリと笑いかけてきます。

 そんな表情をされると強く出れないのは私の惚れた弱みなんでしょうか……

「まあそう怒るな。そんな顔をしても美汐じゃかわいいだけだぞ」

 私の葛藤など知ってか知らずか、いつもの調子の祐一さん。その言葉に紅潮してしまう私も私ですが。

「はぁ、しょうがないですね。今回だけは許します」

 なかばあきらめ気味に私は言う。しかし、そう言いましたが、次回も許してしまうことでしょう。

 まったく、好きが理屈じゃないのはわかってますが、どうしてこんな人を好きになってしまったんでしょう?

「ごちそうさま。今日もうまかったぞ」

「おそまつさまでした」

 私が考え事をしている間に祐一さんは朝食を食べ終わったみたいです。

 なかば条件反射で返事が出ます。そんな私にふとした疑問が浮かびます。

「そう言えば、今日に限ってどうしてお弁当なんか?」

 そう、今日は日曜日。時間は七時。普段の祐一さんなら完全に夢の中です。

「ちょっと美汐と行きたいところがあってな」

 表情でどこに行くかと問います。しかし祐一さんは微笑んで――

「ああ、それはな今は秘密だ」

 ――秘密ですか。気になりますが、今聞いても上手くはぐらかされるんでしょうね。

 朝食の片付けを終えた私が居間に戻ると、準備を済ませた祐一さんが話し掛けてきます。

「それじゃあ、行くか?」

「はい」

 

 結局、行き先もわからぬまま祐一さんについていきます。

 電車を乗り継ぎ、時間にして二時間ほどでしょうか?

 その後、今現在ですが徒歩です。

 もうかなりな時間を歩いているのですが、一向に目標となるようなものを発見できません。

「あの、祐一さん」

「ん?」

「後どれくらいですか?」

 仕方ないので祐一さんに問います。

「ああ、もうすぐだ」

 それからどのくらい歩いたでしょうか。祐一さんが到着といって足を止めます。

 そしてそこには一面の――

「こいつはすごいな」

 ――一面の菜の花畑が広がっていました。

 それは幻想的な風景。

 雲一つ無い抜けるような青空。降り注ぐ太陽の光。

 そして、その光を浴びて輝く菜の花畑。

 祐一さんが行き先を秘密にした気持ちもわかります。

「はい、とても綺麗で、とても幻想的です」

「そうだな」

 と祐一さんはしきりに肯いてます。

「俺もまさかここまでとは思わなかったぞ」

 ということは祐一さんもここにきたのは初めてということでしょうか?

「北川に感謝しないとな」

 なるほど。北川先輩が情報源なんですね。今度合ったらお礼を言っておきましょう。

「あっ」

 突然の風が菜の花畑を吹き抜けます。その光景はすごいの一言でした。

 菜の花がその風に舞い散り花吹雪になります。

 思わず時間を忘れ見入ってしまいます。

ぐるぎゅ〜

 そんな中突然 すごい音が響きました。いえ、まあそれは祐一さんのお腹の音なんですが。

「いや、そのなんだ。生物としておかしな反応じゃないんだからそんな目で睨むな」

 確かに生物として自然な反応なのはわかります。

 ですが、こんな時にそう言った反応をしなくてもいいじゃないですか?

 そんなに睨んでいるつもりは無いのですが、祐一さんは小さくなってしまいました。

 そんなに睨んでましたか?ちょっと自己嫌悪です。

「仕方ないですね。お弁当にしましょう」

 シートを取り出し、お弁当を広げます。

 祐一さんにお橋を渡し、昼食の開始です。

 

 風になびく菜の花に囲まれての昼食。とても綺麗で、でも何処か切ない。そんな空間。

 祐一さんに連れ回される場所も、いつもこんな場所ならいいのに。

 と、思ったりもしましたが、その後昼食の風景が甘々食べさせっこに発展したことにより、結局何処でも変わらないと言うことがわかりました。

 でも私もこう言うのが嫌いじゃないみたいです。

 また連れて行ってくださいね、祐一さん。

 甘く切なく麗かな、そんな春の一日。

 


〜後書き〜
一周年記念SSは祐仁さんのリクエストによりほのラブみっし〜でお届けしました。
これってほのラブ?(マテ
にしても、蒼紅の月の連載やら一万HIT感謝SSやら、最近SS書きっぱなしです(笑
もうちょっとひまが欲しかったりします。
ついで言うとリクエストもこないし(涙
もし私はリクエストしてもいいぞって人がいましたら次回の募集のときにぜひよろしく。

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