「祐一さん、小包が届いてますよ」
やる事もなく、祐一がベットに横になって雑誌を読んでいたところ、階下から秋子の声が響いた。
「あ、はい。すぐに取りに行きます」
小包? いったい何だろうと思いながら、祐一は雑誌を閉じ、部屋を後にする。
タンッタンッタンッ
と一段飛ばしで階段を降り、一階へ。
「え〜と、小包は何処に?」
「居間のテーブルの上に置いてあります」
秋子の言葉に祐一は居間へ移動する。
その居間のテーブルの上にポーツンとその小包はあった。
送り主名は勇人となっている。引越し前の地の友人の名前だ。
小包は特に大きいわけではないし、さりとて小さいわけでもない。片手で抱えられるサイズだ。
「意外と軽いな」
しかしサイズに対して意外なほど小包は軽かった。
その軽い小包を軽く振って見ながら祐一はポツリと洩らした。
「……何か凄く嫌な予感がするのは何故だろう?」
70000Hit感謝SS
チャイナパニック♪
何故か居間で開けてはならない気がしたので、祐一はひとまず自分の部屋に小包を移動した。
「……すこぶる俺の本能が小包を焼却処分しろと命じている」
マジマジと小包を見詰めながら、祐一はとんでもない事を口走った。さりとて、それを実行するのも何か憚れるような気もする。
「真面目な話、開けないとまずいよなぁ〜」
仕方ない、と祐一は包装を解きにかかる。
バリバリとテープを剥がし、段ボールのケースを開ける。
ケースの隙間から覗くのは青い布地。
「服か何かか? どおりでサイズの割に軽いわけだ」
その青い布を掴み、広げてみる。
「ぐはっ! 何故こんなものが!?」
青い布の正体がわかり、思わず唸る祐一。と、その時――
「祐一、入るよ〜」
――と、名雪が祐一の部屋に入ってきた。
「「…………………………………………………………」」
長い沈黙。青い布ごしに名雪を見て固まる祐一。そして祐一の手に持っている青い布を見て固まる名雪。
「な、名雪……こ、これはだな(汗)」
一足さきに復活した祐一は名雪にフォローを入れる。が――
「わかったよ。祐一はチャイナ服が好きなんだね」
――名雪は自己完結した。
「いや、これはダチが冗談で「ちょっと待っててね」」
「ちょっ、待て!!」
祐一の言葉が聞こえないのか、はたまた聞いていないのか、名雪は凄いスピードで祐一の部屋を後にする。
青い布の正体、それはまごうことなくチャイナ服であった。
「何でこんな事になったんだろうな……」
目の前に広がる光景に、思わず祐一が悲しげに洩らした。
まあ、目の前にチャイナ服姿の少女“たち”がいたら普通、喜ぶ前に引くだろう。
実は何気に同級生、上級生チームが居なかったりするのだが、それを気づく心の余裕は今の祐一になかった。
「僕の事……忘れてください」
「うぐぅ、それぼくのセリフ」
北川辺りなら泣いて喜ぶだろうが、悲しいかな祐一は普通の人間だった。
「祐一さん、見てください。似合いますか?」
と、祐一の目の前で回って見せる栞、ほか小学生+下級生チーム。
「あははーっ。何、戯けた事を言ってるんですかね〜」
突然佐祐理の声が何処からともなく響く。
「はちみつくまさん」
と舞の同意の声も響く。
ガンッ
けたたましい音と共に天井の一部が破壊、天井に大きな穴を開ける。
そして何故かその穴から佐祐理と舞が登場、ポーズを決める。
やはりと言うか何と言うか、やっぱり二人もチャイナ服だ。
佐祐理さんが白で舞が黒。デザインは同じ物だ。
「その程度のスペックでチャイナを着ようなどとは笑止です!」
そう言って佐祐理は ビシィッ! と栞達を指差す。
「そ、そんな事言う人嫌いです」
「あぅ〜、美汐よりは大きいわよぅ」
「ちょっ、真琴……そんな酷な事ないでしょう」
「ぼく小学生じゃないもん!」
その言葉に反応するもの、親友を引き合いに出すもの、親友に裏切られ涙するもの、ナレーションにツッコミを入れる小学生。その反応は多岐に渡ったが、最終的な反応は総じて同じ――テクニカルノックアウト――であった。
まあ、フェザー級のボクサーがヘビー級のボクサーに喧嘩を売るより愚かな事だろうし……
ちなみに佐祐理さんの言うスペックが何を指すかは皆さんのご想像にお任せしましょう。
「さあ、祐一さん。邪魔ものは居なくなりました、楽しみましょう」
何気に栞達のことを邪魔物扱いする佐祐理。
と言うかかなり危なげな発言があった気がするが気の所為だろうか?
と、そのまま祐一にすりよって行く。
「はちみつくまさん」
佐祐理と同じように舞も祐一にすりよる。
「佐祐理さん、舞……ちょっ、まって」
「問答無用ですよ〜」
「はちみつくまさん!」
祐一の貞操危うし(マテ)
このままおいしく頂かれてしまうのか!?
詳しくは次回をマテ(え゛?
「「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
「だ、誰ですか!?」
「いや、誰って……」
突然辺りに響く二名の声。
佐祐理さんは誰かわかっていないようだが、祐一は気付いているようだ。
つーか出てきた人物を考えたら残りはあの二人しか居なかったりするんだが。
「祐一は私とお母さんの物なんだお〜」
「そうです、私たちを忘れてもらっては困ります」
出てきたのはやはり青い髪の少女とウェーブがかった髪を持つ……違った。
青い髪の少女と、同じく青い髪――こちらが元だが――を持つ主婦であった。
「あ……秋子さんまで」
あまりの事に崩れ落ちる祐一。もう何を信じて良いのかわからないらしい。
いや、まあ同じ状況に陥ったら人間不信になってしまいそうだから何とも言えないが。
「祐一さん、似合いますか?」
何やらノックされた人々と同じように回って見せる秋子。
「くっ!」
「夢……夢を見ている……」
そのスペックの高さに先ほどとは違い、ツッコミを入れられず佐祐理は歯噛みする。
ついでに言うと、祐一は既に現実逃避を開始している。
「ほら、祐一。私とお母さんなら二種類の味を楽しめるよ〜」
祐一の状態など気にせず、名雪は祐一の名前を呼ぶ。
なにやら危なげな発言があった気もするが、気の所為だろう(ォィ
「祐一さん!」
「祐一」
逆に佐祐理と舞は積極的に祐一へ迫っていく。
「負けないんだお〜」
「名雪、負けてられないわよ」
と言うわけで――
「祐一〜」
「祐一さん」
――名雪と秋子さんも祐一へ迫っていく。
そんな四人を前にして祐一は――
ガシャァァァァァァァン!!
――窓を突き破って逃げた。
「全く、それでここへ逃げてきたわけ?」
香里は祐一の話を聞いてあきれ返った。
実際は目が微妙に泳いでたりするのだが、こう言う事に気がつかないのが祐一である。
「いや、さすがにアレは……」
何と言うか、リストラされたお父さんみたいな感じの祐一。
「あら?」
そんな祐一の姿を見ていた香里が急に声を発した。
「怪我してるじゃない?」
と、祐一の肘を指す。指差された肘をみて祐一が「おおっ」と声をあげる。
どうやら気付いてなかったらしい。まあ、こういう怪我が一番気付き難かったりするものだ。そして往々にして気付くと――
「痛い」
――となるわけである。
「はいはい。手当てしてあげるから、ちょっと待てて」
「悪い」
「それじゃ、手当てするから肘を見せて」
数分後、香里が準備をして戻ってくる。
その香里の姿をマジマジと見詰めて、祐一が何とか口を開いた。
「え〜と、香里さん?」
その香里の姿は――
「手当てと言ったらこれよ」
――ナースだった。
「香里もかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
結局、何処へ行ってもコスチュームに付きまとわれる祐一であった。
そしてその部屋の片隅に、急いでしまわれたのかタンスからはみ出している紅いチャイナ服が一着。
ま、それはまた別の話。