カランッカランッ
「3等、遊園地のフリーパス×2大当り〜」
……一瞬、なんのことだか理解できなかった。
満面の笑みを浮かべたおじさんの顔。落ちている銅色の玉。
「おめでとう、お嬢ちゃん」
そう言われて初めて、自分が福引で3等を当てた事が理解できた。
九萬ヒット感謝SS
遊園地へ行こう! 前編
家に向かう足取りが軽い。
柄にも無く浮かれているのが自分でも自覚できる。
でも、仕方ないじゃない。こういったもの――ビンゴゲームやくじ引き――に当ったのは初めてなんだし。
と、とか何とか考えてたら早くも家に到着。早くとは言ってるけど、実質的な時間はいつもと変わらないのよね、これが。
こう楽しい気分の時は何故か時間の経過が早く感じるものなのよね。
「ただいま〜」
「お帰り〜」
間髪入れずに応答がある。この声はお母さんね。
まあ、今回の買い物をあたしに頼んだのはお母さんだし、当然と言えば当然なんだけど……
「あら、香里ちゃん。何か良い事でもあった?」
と、買い物を受け取るためか、顔を出したお母さんは開口一番にそう。言った
あたし自身、いつもと同じ表情をしているつもりなのに、ちょっとした変化を見て取ったのだろう。
我が母ながら、この人は不必要な程に鋭い人だと思う。
特に心の機微には……まあ、だからと言って新酷な悩みのときは簡単にそれを聞いてきたりはしないけど。
逆にお父さんは全くもって鈍感だったりするんだけ――話がそれたわね……
「えと、良い事って程でもないんだけど……福引で遊園地のフリーパスを当ったの。それも二枚」
と、券を取り出して見せる。
そう言えば……浮かれてて気付かなかったけど、フリーパス二枚って――家族や友達で行くには少ないし――そ、そう言う人と行けって事なのかしら? やっぱり(汗)
で、そう言う事に気が付かない母じゃないわけで――
「あら、良かったじゃない。それで香里ちゃんは誰と行くの?」
――こうなるのよね……それもさりげなく『誰』を強調して(涙)
「あぁぁぁ、えと、その、ま、まだ聞いたわけじゃないから行けるって決まったわけ――」
ハッ!? しまった!? これじゃあ一緒に行きたい人が居るって言ってるも同然じゃない!? ばかばか、あたしの馬鹿〜(涙)
「じゃあ、香里ちゃんは誰と行きたいの?」
うう゛、まさに間髪入れず(涙)
トンットンットンッ
と、丁度その時階段を降りる軽い足音が聞こえてきた。
ナイスタイミングよ、栞。後でハー○ンダッツを買って上げるわ。
よし、このチャンスを活かしてこの危機を脱するのよ。
「あ、しおっ「栞ちゃん聞いてよ〜。香里ちゃんたらね、福引で遊園地のフリーパスを当てたらしいのよ。それも二枚」」
……挫けちゃ駄目。挫けちゃ駄目よ、香里(涙)
「えぇ!? それは本当ですか!?」
「それでね〜、香里ちゃんたら一緒に行きたいひとが居るらしいのよ。栞ちゃん、誰だかわかる〜?」
えぅ、今間違い無く「男性」と書いて「ひと」と読んだわ(涙)
「お姉ちゃん……」
「なっ、なに?」
その睨みつけるような視線は何!? あたしは被害者よ!?
「北川さんは少し趣味が悪いと思いますよ?」
だぁぁぁぁ!? 何で北川君なのよ!?
「あたしは相沢君一筋よ!!」
あっ!? またやっちゃったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
「なるほど……相沢君ね。栞ちゃん、学生名簿出して〜」
「学生名簿〜♪」
なんでドラ○もん調で? しかもポケットから学生名簿が出てくるの?
「ついでと言っては何ですが、一緒にクラス写真も取りだしておきました」
「グッジョブよ、栞ちゃん」
現実逃避してる場合じゃ……って、なんで栞がクラス写真を持ってるのよ!?
「甘いですよ、お姉ちゃん。写真と言うものは鑑賞用、保存用、実用と同一な物を三枚手に入れておくのは普通です」
って、だから、なんであたしのクラスのを持ってるかって聞いて……実用? こ、怖いから聞かないわ。
「ちなみに私は合計で百枚手に入れて、実質○○○○円で捌きました。ちなみに倉田先輩が引き伸ばしたものを含めて○○○○○円で……」
ああ〜聞きたくない〜(涙)
うぅ、昨日は――と言うか、今朝もだけど――酷い目にあったわ。
それにしても、裏で色々と悪事を働いているみたいね、家の妹は……(汗)
ひとまず、学校ではそんな事は無いと思いたいわね。
「おす、香里」
「かおり〜おはお〜」
「お、おはよう。相沢君」
考え事をしてる最中に話しかけられたから思わず声がうわずってしまった。
「かおり〜おはお〜」
それに、昨日あんな事があったわけだし……(照)
「かおり〜おはお〜」
「どうした、香里? なんか顔が赤いぞ? 熱でもあるのか?」
「えっ、そのあの……何でも無いわ」
えぅ、どうやら顔に出てしまったよう。うぅ〜、相沢君の前だとどうも自身の制御が……(更照)
「本当に大丈夫か? もしインフルエンザだったら大変だぞ?」
そう言って相沢君は髪を掻き上げあたしの額に……って、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?
「ふむ、熱は無いみたいだな。……なんか顔の赤みが増しているような気がするんだが?」
「(ポ〜〜)」
「香里? オイ、香里?」
「えっ!?」
「本当に大丈夫か?」
「だ、大丈夫よ。何でも無いから」
「おはよう、香里(怒)」
なっ、名雪? 一体いつのまに!?
「祐一、今晩は覚悟しててね?(冷笑)」
うぅ、名雪が怖いわ。
「なっ何故だ!?」
理由は……まあ、そのあたしの所為と言うか何と言うか。
相沢君は純粋にあたしの事を心配してくれたんだろうけど、アレは名雪には眠気が消し飛ぶほどの衝撃だったよう。
えと、あ……あたしはすごく幸せだったけど(照)
ごめんね、相沢君。
「み〜さ〜か〜」
北川君があたしの名前を呼ぶ。
どうやったらそのテンションを保てるのか聞きたくなるぐらいのハイテンション。
「北川の癖に、朝っぱらからうるさいんだおーっ!!」
な、名雪。それはちょっと言いすぎじゃない?(汗)
まあ、その気持ちもわからないじゃないけど。
「うぐ、水瀬……(涙)」
ほら、泣いちゃったじゃない。
「よしよし。男の子が泣いちゃ駄目だぞ。そうだ、お兄ちゃんが飴をあげよう」
「ぐすっ、もう僕泣かない」
この二人が関わると遅々として話が進まないのは何故かしら?
もう慣れちゃったけど……
「それで、あたしに何の用?」
「○≠△∞☆×□§?」
「……ひとまず、口の中からその飴を抜いて喋りなさい」
普通、口に物を含んで喋ったとしてももう少し聞き取りやすいと思う。
て言うか、今のは絶対に人間の扱う言語じゃなかった気がするわ。
「昨日福引で遊園地のフリーパスを二枚当てたって本当か?」
ほら、同じ内容を喋ったはずなのに長さが全然違う――って、何で北川君がその事を知ってるの!?
まだ相沢君にも言ってないのに!?
〜後編(中編?)へ続く〜