ARMORDE CORE 蒼紅の月
序章
「早く!早く行け!!祐一!!!」
男が銃を乱射しながら言った。
「でっでも」
後ろで同じく銃を撃っていた少年―――祐一―――はその声にうろたえた。
「デモもストライキもない!さっさと逃げろ!!」
「祐君、私たちは後から行くわ。だからあなたは先に逃げて」
男に庇われる様にして銃を撃っていた女性が、優しく諭すように祐一に言った。それを聞いた祐一は意を決した。
「わかりました。でも絶対ですよ」
「祐君」
そう言って駆け出そうとした祐一に女性が声をかけ、何かを投げてよこした。
「うわっ!?……ACの機動キー?」
「7番格納庫にあるわ。未完成だけど性能はぴか一よ」
思わず呟いた祐一に女性がウインクしながら説明した。
「ありがたく使わせてもらいます」
女性に礼を述べ、祐一は駆け出した。
それから一ヵ月後
「本当にいいんですか?」
「すいません、こんな事をお願いしてしまって」
祐一は目の前の女性―――水瀬秋子―――に頭を下げた。
「今は…この機体を見るのが辛いんです」
「そうですか……」
「それじゃ、もう行きます」
「祐一さん……」
呼びかけ。車に掛けていた手を下ろし、祐一は振り返る。祐一の哀しみに満ちた瞳を見つめながら秋子さんは続ける。
「今、こんな事を言うのは酷かもしれませんが………全てを無かった事にすることなんて出来ません。そして過去を否定する事も。だから……今はそれでもいいですが、乗り越えてください。忘れる事は楽かもしれませんが、それは大切な人達への最大の裏切りです。だから……」
「………ありがとうございます」
そういった祐一の表情は笑っていた。哀しみの色は消えてはいないが、先ほどまでは感じられなかった、生命の輝きがあった。
「この機体は責任を持ってお預かりします。いってらっしゃい、祐一さん」
その祐一の心を汲んで、秋子さんも微笑みながら返した。
「……いってきます、秋子さん」
車に乗り込み、祐一は街を後にする。上空では雲の隙間から顔を覗かせ月が、優しく光り輝いていた。
〜つづく〜