ARMORDE CORE 蒼紅の月

 

トンットンッ

 扉をノックする軽い音が静かな廊下に響く。

「どうぞ」

ガチャリ

 秋子の声に反応して扉が開かれる。

「しつれいします」

 開かれた扉から祐一が軽く頭を下げながら入室してくる。

「どうぞ、適当に座ってください」

 そう言いながらイスを指差す。

「久しぶりの再会はどうでしたか?」

 イスに腰をかけた祐一に秋子が問い掛ける。その質問に祐一は笑顔で答えた。

「一言では言い表せませんけど、良かったと思ってます」

「もっと早くこう出来たらいいと思いましたか?」

 答えた祐一に秋子は意地の悪い質問をする。一瞬質問の意図を掴みかね祐一はキョトンとしたが、すぐさま力強く答える。

「おもいません。また会おうと思ったのはこの4年間にあった出来事のおかげですし。何よりこの4年間を否定したくないですから」

 そこで言葉を切り―――

「昔ならそう思ったかもしれませんけど」

 ―――苦笑しながらづつけた。

「(強くなりましたね)」

 そんな祐一の姿を秋子は微笑みながら見つめていた。

 

第三話 月影

 

「それでは先ほどの疑問に」

 秋子がそう切り出した瞬間、けたたましい電子音が執務室に響いた。執務机に備え付けられた電話の音だ。

「すいません」

 一言断わって秋子は電話に出た。電話を横で聞いているのもなんだな、と思った祐一はひとまず執務室から退出しようとイスから腰をあげた。それに気付いた秋子は祐一を静止する。

「そんなに気を使わなくても大丈夫ですよ」

 そういわれたので、再び祐一はイスに腰をおろす。やはりすぐ近くで電話をしているため、聞き耳を立てずとも会話の端々が聞こえてくる。

「テ…!?わかりまし……ヘブ………G…………手が一杯?……………」

 ひとまず受話器を置いたと思うと、すぐさま電話を掛ける。今度はどうやら内線のようだ。

「佐…理…ん……何機出せ………今出せるのは二機だけ?……………真琴と美汐ちゃん…………………なんですって!?…………ひとまずは二人に………」

 会話が進むに連れて秋子の表情は険しくなっていく。ほどなくして受話器を置いたが、その表情は険しいままである。

「秋子さん、いったい何が?」

 もともと、こう言うことには深く踏み込まない祐一だが、秋子のただならぬ気配に聞かずにいられなかった。

「……テロです。大規模なテロが起きているそうです。今ヘブンズ社から援護の要請が来ました」

「テロ!?ヘブンズ社のGAは?」

 想像したことよりも大きなことが起こっているようで驚きを隠せない祐一。しかし心の冷静な部分は的確な質問をする。

「防衛で手が一杯のため……迎撃まで手が回らないそうです」

 沈痛な面持ち。その表情を見るだけで現状の悪さが伝わってきそうである。

「使用できる機体は?」

 その祐一の言葉に秋子はハッとする。

「今すぐに戦闘に使える機体は?」

「祐一さん……」

「俺が出ます」

 その瞳に写るは力。幾ばくか哀しみと激しい怒り、それらを超える意志の力。

「十番デッキ……十番デッキに一機あります。ですが、性能は並以下です」

「俺の過去を忘れましたか?」

 ニヤリと唇の端を吊り上げ、祐一は執務室を後にする。そして格納庫に向け駆け出した。

「世界最年少Sランクレイヴンですか……」

 遠ざかる足音を聞きながら秋子は一人ごちた。そして内線を格納庫に繋ぐ。

「秋子です。佐祐理ちゃん、十番デッキのACの緊急発進の準備を。……ええ、出します。搭乗者名は―――

 

 ―――祐一さん、これを」

 格納庫に駆け込んだ祐一に、佐祐理はAC始動キーを渡した。十番デッキ、そこに鎮座しているのは中量級の黒いAC。

「当たり前ですが、その機体はパイロットにあわせた設定をしてません。ですからどうしても限界領域では反応がルーズになります。あまり無茶はしないで下さい」

 佐祐理の言葉にうなずきながら祐一はタラップを上る。ハッチを開き、コックピットに滑り込む。そして手馴れた手つきでACを起動していく。

『システム起動 各部正常 ジェネレーター出力30% 各関節ロック解除』

 ACの起動を告げる電子音がコックピットに響く。その声を聞きながら祐一はACをエレベータに移動させる。

『祐一さん、聞こえますか?』

 その時、秋子さんから通信が入った。

「はい、それで状況は?」

『今ここから出撃したAC2機がテロ部隊と戦闘に入りました。正確な情報ではありませんが、テロ部隊はMTが約100機、未確認ですがヘブンズ社からACが2機を確認したという情報も入っています。多勢に無勢な状況なので、まずは二機の援護からお願いできますか?』

「了解」

『ついでにその子の名前を考えてください』

「は?」

 いきなりの言葉に祐一は少々面食らう。それもそうだろう。このような切迫した状況で、機体名を聞こう人などいるはずが無い。もとい、この人以外いないだろう。

『機体の登録をしますから』

 このような理由があったとしても。

「そうですね…………月影……月影です」

『月影ですね。登録しておきます』

 通信を終了した後、祐一はすばやくコンソールを操作し―――

『ジェネレータ出力上昇 60 70 80 90 臨界 戦闘システム起動』

 ―――ACが戦闘システムを起動する。それとほぼ同時にエレベータが地上に到着する。

「いくぜ!!」

 そう言うと祐一はレバーをフルスロットルに叩き込む。けたたましい音を立て祐一の駆る黒いACは戦場に向け飛び立った。

 

「真琴、二機抜けました」

 目の前のMTにマシンガンを斉射しながら、美汐は真琴に告げた。

「了解よ」

 短い返事のすぐあとに、先ほどの二機のMTが爆炎に包まれる。真琴の放ったスナイパーライフルに打ち抜かれたのだ。しかしながら、目の前のMT部隊は先ほどから十数機ほど撃破しているにもかかわらず、一向に減る気配が無い。それどころか増加しているようにさえ見える。

「いったい何機いるのよぅ」

 真琴が残弾を確認しながら愚痴る。スナイパーライフルが14発、チェインガンが100発ほど。レーダーで確認できる残存兵力は100機ほど。それを鎮圧するには弾は足りそうも無い。文字どおり、多勢に無勢である。

「さすがに……二機でこの数を相手するのは骨が折れますね」

 軽口を叩いているが、美汐の方が状況は悪い。軽量二脚の機動性を活かし、敵を撹乱するためにMT部隊の程中心に突入しているため、被害が甚大なのである。
 美汐は撃ち切ったミサイルを機体から切り離しながら敵機の攻撃をかわした。しかし、その回避行動がまずかった。一機の格闘戦型MTの攻撃範囲に入ってしまったのだ。振りかぶられるブレード。

「美汐!!」

「っ!?」

ズガァァァァン!!

 激しい爆発音が周囲に響いた。

 

 

〜つづく〜


用語解説

・ヘブンズ社

 世界を又にかける二大企業の一つ。雑貨品に始まり電化製品、自動車、ACまで開発する。

・GA

 ヘブンズ社所属のAC部隊。正式名称ガーディアンエンジェルス。用は自警団なのだが、その戦力は自警団の枠を越えている。


〜後書き〜

第三話完成。
戦闘開始、やっとAC小説っぽくなって来ました(笑
そんなこんなでまこぴ〜とミッシー登場。
機体の構成の方は量が多いので別にまとめました。
そちらを参照ください。

機体名について
真琴機:NaughtyFox
美汐機:グレスタード・クライド
日本語の意味は
真琴機:いたずら狐
美汐機:過去を断ち切る
です。
前に書きましたが美汐機はFuji−kenさんの投稿です。
改めて御礼申し上げます。
あっ、美汐機の英語(英語ですよね?)の綴りが知りたかったり(笑

閑話休題

来週からテストが始まります。
と言う事で来週のアップは無理だと思われます。
SS執筆の合間に勉強する、もとい勉強の合間にSSを執筆してもおそらく完成はしないと思いますので、ご了承ください。

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