ARMORDE CORE 蒼紅の月

 

 ブレードを振り上げたMTの腕――肘から先――が凄まじい音を立て爆ぜ飛ぶ。

 振り上げた筈の腕部が弾け飛んだことにより、一瞬そのMTの動きが止まる。その気を逃がさずに美汐はすかさずブレードを振りぬいた。

 ブレードの直撃を受けたMTは爆発、四散する。

 ひとまずMT部隊の射程外に逃れながら、美汐は狙撃したであろうポイントを見上げる。そこには――

 

第四話 鎮圧

 

「(ギリギリだったな)」

 赤い軽量型AC――美汐機――がひとまず射程外まで退避したことを確認した祐一は、コックピットの中で軽く息を吐いた。ブレードを振りかぶったMTへの狙撃。スナイパーライフルに比べ、貫通力、威力ともに劣る汎用ライフルで狙撃したところでMTは止められない。そこで祐一は肘関節への狙撃を行ったのだ。

「さて、いっちょやるか」

 エクステンション、迎撃ミサイルを起動させ、祐一はMT部隊の中に飛び込む。いせっいに周りのMTが祐一のほうに振り向く光景は威圧的であり、滑稽でもあった。

 自由落下している機体を3時方向に加速、移動させる。移動させた機体をMTの放った銃弾が掠める。移動させるのが少しでも遅れていたら直撃だったであろう。

 その状態のままライフルを斉射する。機体が着地すると同時に、直撃を受けたMTが沈黙する。

「つぎ!」

 凶悪な笑みを浮かべ、ブレードを振り上げた。

 

 ――黒い機体。

 見上げたビルの上に、黒い機体が立っている。

「アレは……?」

「あぅ〜、美汐大丈夫?」

 見上げた機体を怪訝に思っている美汐に、心配した真琴の通信が入る。

「大丈夫です、真琴。にしても、あの機体はたしか……」

 質問とも、独り言とも取れる声量で美汐が呟く。その声が聞こえたのか、自分で確認したのかわからないが、真琴が言う。

「あれって、十番デッキの機体よね?」

 真琴の言ったとおりだ、それは十番デッキの機体である。しかし、何ゆえこの場にその機体があるのか二人にはわからない。

 次の瞬間、その機体がビルから飛び降りる。ライフルを斉射し着地したかと思うと、すかさずブレードで手近な機体を斬り捨てる。

「すごい……」

 どちらが呟いたのか、その機体の戦闘を見た者が述べる感想はその一言だろう。

 その機体の動きは異常と言っても差し支えの無いものだった。普通のレイヴンでは避けられないような攻撃を避けるくせ、まったく回避の動作もせずに攻撃を無防備に受ける事もある。

 いや、真琴と美汐にはその理由がわかった。機体の頑丈な部分で敵の攻撃を受ける。それは無理な行動でその攻撃を回避して、体勢を崩すよりも機体の損害が少なくてすむという事だ。しかし同時に、それが「どれだけ難しいか」という事も理解できた。

 ACだからこそできる、攻撃に耐えるという行為。人間に出来ない行動故に本能は回避行動を選んでしまう。それを捻じ伏せるだけの精神力と的確な状況判断、そして何より自信が無ければできない事だ。

「真琴、私たちも行きますよ」

 気を取り直した美汐は、戦闘に参加するために機体を加速させる。それを追うように真琴も機体を加速させた。

 

 真琴達が戦闘に参加したことにより、戦況は一気に傾き始めた。MTがこぞって祐一に向っているからだ。そのおかげで真琴達は回避を考えず、ウィークポイントに攻撃ができる。

「(おかしい)」

 MTに突き立てたブレードを振り抜きながら、そう思った祐一はMTの動きの観察する。

 戦術的に見て一番強い敵を一番に狙うのは正しい。だがあまりに周りの敵を気にせずに群がってきすぎる。人間なら敵わない事に気付き、他の敵に向っていく筈だ。

 それにMTの動きが単調すぎる。ほとんど回避行動をとらない。むしろ攻撃しか考えていないようにさえ感じる。人間が乗っているのなら、こんな事があるわけない。それらが示すのは――

「(なるほど、AIか……確かにテロに荷担する人間が早々いる筈はない)」

 考え事をしながらの戦闘。それでも身体は自然と動き、敵機を壁にするように移動する。その様は、歴戦の兵のそれである。

「(なら近くに指令を出している機体がいるはず)」

 おそらく始めに言われた2機のACだろうと考えた祐一はレーダーに目を落とす。人が乗っている機体なら他と動きが違う筈だからだ。それらしい機影はない。すぐさまレーダーレジンをワイドへ切り替える。レーダーの表示が縮小し、索敵範囲が2000mへと広がる。

「(こいつか!?)」

 一つだけ、一つだけ複雑な機動を行っている点がレーダー上にあった。それを発見した祐一の決断は早かった。

「(距離にして約1290、一気に勝負に出る)」

 コンソールを操作しミサイルポッドをパージする。それとほぼ同時にOB――オーバード・ブースト――を起動させる。

 機体の後部ハッチが開き大型ブースターが顔を見せる。次の瞬間、大型ブースターが爆発的な出力で機体を前方に加速させた。

 

 爆発的な加速Gでシートに押し付けられる中、祐一はぐんぐん近づいてくる光点を見つめる。距離にして残り400。敵機が視認できる。そこにいたのはグレーの乗量逆関節ACだった。

「(こいつだ)」

 大出力に荒狂う機体を捻じ伏せ、敵機をロックする。数発、ライフルを発射し、すぐさまOBを切る。エネルギー残量や相対距離が十分詰まったという理由もあるが、なによりライフル弾を回避した敵機がOBの軌道上――直線上――に入ったからだ。

 爆発的な加速力により叩き出されるトップスピード。そのスピードにより発生する慣性のため他の行動が困難なのはもとより、OBはその性質上、大幅な機動力を得られるが、運動性は限りなく低下する。

 簡単な話だ。OBにエネルギーを割く事により、他の行動のためのエネルギーが不足する。エネルギーの総和を十とした場合、普段は機動、運動力に五づつ割いていたとする。しかしOB起動中は機動力に九まわされると言う訳だ。

 その結果、進行方向に対して横方向からの攻撃を回避するのは簡単だが、直線方向上の攻撃を回避するのは限りなく困難なのである。もちろん相対速度が上がるのも責任の一端ではあるが。

 祐一の機体が数瞬前までいた場所を、轟音を立てグレネード弾が通過する。少しでも回避が遅れていれば直撃だろう。

「ちぃ!!」

 舌打ちしつつ祐一は機体を跳躍させる。グレネードのサイトはND――NARROW&DEEP(狭く深い)――。それなりの運動性のある機体なら動き回っていればよほどの事がない限り直撃される事は少ない。

 しかし祐一のその機体はロック警報によって破られる。この距離の機動戦闘にはグレネードが不利だと考えた敵機が武器を切り替えたのだ。肩武装、デュアルミサイルのコンテナが開く。

それを見た祐一は一つの賭けに出た。 着地と同時に一気に前方へと機体を加速。ライフルをフルオート射撃しながら急激に間合いを詰めていく。

 ほとんどのライフル弾はその装甲に弾かれた。だが、祐一のねらいはライフルによる攻撃ではない。ライフル弾を弾いた敵機からミサイルが複数発同時に発射される。

 発射されたミサイルには目もくれず、祐一は無理やり間合いを詰めていく。ミサイルに反応しエクステンションの迎撃ミサイルが起動、発射されるる。多くのミサイルを落とす事には成功したが二機打ち洩らした。

 打ち洩らしたミサイルのうち、一機は回避――正確には逸れた――出来たが、残りの一機は右肩部に直撃する。幸い腕部が吹き飛ぶような事はなかったが、それでも右腕が使用不可能なのは間違いないだろう。

 しかし祐一は止まらない。その間合いが0に近づく。 あまりの驚愕に、敵機の動きが一瞬止まる。それが致命的な遅れとなった。

 祐一は左腕を無造作に突き出す。いや、一見無造作に見えるが、それは正確に頸部――人間で言う喉に――を捉えている。一瞬遅れてエネルギーブレードが形成され、頸部を貫いた。

 

 

〜つづく〜


・機動性と運動性について

 機動性は機体の最終的なスピード(加速性能は別とし)や直線的な行動(前後動や左右動などは含まない)における速さと捉えています。

 逆に運動性は加速性能、その場合における行動の幅(たとえば、急な方向転換など)と捉えています。

 ニュアンスの微妙な違いは重々承知していますので、つっこみは勘弁してください(笑


〜後書き〜
第四話完成。
テスト期間を挟んだ為、第三話より二週間たってしまいました。
ごめんなさい。
見捨てないで下さいね(いやマジで

今回は戦闘オンリーです。
だんだんACSSぽくなってきたので、安心してたりなんかします。(笑
う〜む、書くことないぞ。(死
ま、終わりで良いか。(マテ

掲示板やメールで感想をくれると、大変喜んだりします。
エサ(感想)を与えてやってください(笑

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