ARMORDE CORE 蒼紅の月

「構いませんよ。むしろこちらからお願いします」

「それでは手続きなどはこちらで済ませておきますので」

 執務机より書類を取り出し、手早く記入していく。手馴れたものである。

「この書類にサインをお願いします」

 先ほどの書類とボールペンを祐一に差し出す。さっと書類に目を通し、サインする。

「紹介は明日皆さんが集まってからのほうがいいと思いますので、それで良いですか?」

「ええ、それでいいですよ」

 

第六話 水面下

 

 シャリシャリと音を立てながら雪で覆われた道を歩いて行く。

 秋子はいろいろと始末しなければならない作業があるらしいので祐一が一人帰宅しているのだ。

 待つと言ったのだが、遅くなるのでいいと半ば押し切られるように帰宅させられているのだ。

 少し歩くと自動販売機があった。

 特に慌てる用事も無いので、一息つこうと思った祐一はポケットから財布を出し缶コーヒーを買った

 そして近くにあったベンチに腰をおろす。

プシュッ

 軽く煽るようにして口に含む。暖かくほろ苦いコーヒーを喉に感じながら祐一は一息ついた。

「それにしても、まさかあんな事をしてたとはね……」

 苦笑しながら呟く。

「色々と底の知れない人だと思ってけど、まさかここまでとはね」

 残りのコーヒーを飲み干し、立ち上がる。

「そういや、まだ荷物の片付けが残っていたな。さっさと帰ってやっておくか」

 

ビーッ!ビーッ!

 けたたましく警報が鳴り響く廊下。その廊下を戦闘服とも制服ともつかぬ格好をした男が駆け抜ける。

 その男が、無線で連絡を取っている。

「敵の数は?」

『い、一機です。紅いACたった一体です。基地の五割が全損。無傷な部分は約二割しかありません』

「(たった一機にこうもやられるのか?)救援到着予定時は?」

『約2分後との事です』

「この基地を放棄する。証拠の隠滅は確実にしろ」

『りょ、了解であります』

 アマテラス化学研究所。街より数キロ離れた場所に設置された基地である。しかしそれは名ばかりで、正確にここを表すとしたら軍需基地だ。

 無論のこと法的に認められていない基地だ。

 それゆえに、敵襲があっても大々的に救援要請ができない。同社に救援要請ができるだけだ。

 しかし曲がりなりにも軍需基地である。それこそ下手なアリーナよりも戦力はあるはずだ。それをたった一体のACにここまで破壊されるとは思っても見なかったであろう。

 

「はあ、腹が減ったな」

 現在22時、晩御飯の時間はとっくに過ぎている。家主の秋子が帰っていないので夕食を勝手に食べるのが躊躇われ、結果今に至っている。

 荷物整理も終え、やる事もなくなった今、祐一にできるのは空腹に耐え暇と戦うことだけだった。

 祐一が腹が減って暇だし、もう寝ようかとちょっと考え始めた瞬間、家の扉が開かれた。

「秋子さんか??」

 そう思い出迎えるため立ち上がろうとした祐一の耳に凄まじい音が響く。

どどどどどどどどどどどど

バタンッ!!

 けたたましい音と共に祐一の居るリビングの扉が開かれる。そこに現れたのは――

「祐一〜久しぶりだよ〜〜」

 ――いや、飛び付いてきたのは名雪だった。

 反射的に祐一は身をかわす。その結果、飛び付いていた名雪は地球を激しく抱擁をする事となる。

ごんっ

 先ほどまでの音とは比べ物にならないほど小さな音だったが、その音は恐らく今までで一番はっきりと聞こえた。

「………………………………………………………」

 沈黙、気まずい沈黙であった。

「う〜、祐一極悪だよ〜」

 復活した名雪が、非難の眼差しを向けてくる。それもそうだろう、名雪の中では感動の再会のシーンがぶち壊しにされたと自己完結している。

 無論あのスピードで飛び付くのは、タックルと同じ結果をもたらすと言うことなどには気付いていない。

「あ、いや、その、すまん。いきなりだったから咄嗟に」

 素直に謝った後で、祐一は何か釈然としない物を感じた。

「(俺が悪いのか?)」

 その後名雪の機嫌が治るまで一時間ほど要した。

 

 名雪の作った料理をほうばる。秋子さんほどではないが、おいしい。いや、正確には秋子さんが別格なんだろう。

「ねえ祐一」

「ん?」

「祐一もKanonに所属するんでしょ」

 祐一は口の中に入っている物を飲み込み、お茶を一口飲み、一息ついてから答えた。

「ああ。つかぬ事を聞くんだが、まさかお前も参加してるのか?」

 その発言を聞いた名雪がちょっとムッとする。どうやらまさかの部分が気に入らなかったらしい。

「当たり前だよ」

「いや、悪い悪い。そういうつもりで言ったんじゃ無いんだ」

 祐一の発言を流すかのような感じで名雪は続ける。とても上機嫌なようだ。

「明日からはいっしょに働けるんだよ。嬉しいよ〜」

「そうか?」

 問答無用な祐一の発言などは気にも止めない。やはり上機嫌に続ける。

「うん、嬉しいよ。それでね祐一、私のACは可愛いんだよ〜」

 ACを指して可愛いと言うのはすごい物があるなと祐一は思った。

「か、可愛いのか?」

 祐一の表情は引き攣っているのだが、名雪は気にせず、いや気づかずに続ける。

「シティアベルっていうんだよ〜」

 特大の汗を額に貼り付け、それでも義務感からか祐一は口を開いた。

「名前の由来は?」

「イチゴからだよ〜」

 今度こそ祐一はかける言葉を失った。

 

 基地を放棄する。簡単に言うが人員の避難や証拠の隠滅を考えたらとても大仕事である。

「自爆作業は?」

『あと60秒で完了です』

「そうか。完了次第個々の判断で脱出。その後は本社の方に集合だ」

『了解』

 脱出作業の指示を終え、男も脱出を開始する。

 近くに止まっている資材、人員避難のためのトラックに乗り込む。

「出します」

 ドライバーの男がそう言うと、資材と人員で一杯のトラックが走り始めた。

 しかし、それもすぐに止まることとなる。目の前で味方のACが爆発が起きたからだ。

 その爆発の影から表れるのは紅いAC。

 それは地獄から現れた死神のように感じられる。いや彼らにとって、それは死神そのものであった。

「なっ!?」

 皆が皆、驚愕を禁じえなかった。紅いACは今、救援のAC隊と戦闘状態にあるはずだからだ。

 そしてこの機体がここに現れたと言う事は、救援のAC隊を全て始末したと言う事になる。

 それはにわかに信じられる事ではない。が、そんな皆の心中などお構いなしに、紅いACはそこに存在する。

 ゆっくりと向けられる銃口。その銃口から瞬いた光。

 それが彼らの見た最期の光景となった。

 

 祐一の知らない水面下で事態は急速に加速していく。

 

 

〜つづく〜


用語解説

・アマテラス

 世界を又にかける二大企業の一つ。ヘブンズ社を激しくライバル視している。近年一気に業績を伸ばし、二大企業の一つとなった。故に裏では色々と汚い事もしている模様。今回の基地もその一つである。


〜後書き〜

今回きつかったです。
一万ヒット感謝SS書いてた所為で全然書けてなかったので(苦笑
今日一日で書上げたので、特に今回は粗が目立つかもしれませんが赦してやってください(マテ

今回登場した名雪機「シティアベル」はスルメばーにんぐさんの投稿です。
この場をお借りしてお礼を申し上げます。
どうも、ありがとうございました。

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