ARMORDE CORE 蒼紅の月

 

「あら、おはよう相沢君」

 後ろから声がかけられた。

 祐一が振り返るとそこには美坂香里がいた。

「ん?ああ、おはよう香里」

 二度目にして少々なれなれしいかなとも思ったが、祐一はそう返した。

「ねえ相沢君、悪いんだけどちょっと付き合ってくれないかしら?」

「悪い、ちょっと用事が……」

「お願い」

 香里は瞳を潤ませて祐一を見上げる。俗に上目遣いというやつだ。

「あっ、いやその」

 急な展開に祐一が柄にもなく慌てふためく。その姿を見ていた香里はクスクスと笑った。

「冗談よ。Kanonに行くんでしょ。いっしょに行かない?」

「……知っててやったな」

「そんな事ないわよ」

 そう言って微笑みながら歩きだした香里を追い、祐一は苦笑しながら歩き始めた。

 

第七話 陰謀

 

「知っている人もいると思いますが、改めて紹介します。相沢祐一さんです」

 秋子の言葉とともに十八の視線が祐一に集まる。

 その視線の約半数、というか十六の視線が女性なのが多少気になるが祐一は自己紹介をする。

「今日からKanonに所属することになりました、相沢祐一です。よろしくお願いします」

 短い挨拶を終えると女性陣が一斉に騒ぎ始める。

「祐一、ふぁいとっだよ」

「月宮あゆだよ。よろしくね祐一君」

「川澄舞」

「よろしくお願いします、祐一さん」

「改めまして、天野美汐です。こちらこそよろしくお願いいます」

「あぅ〜よろしく」

「あははーっ、こちらこそお願いしますね」

 祐一は例えるならバーゲンの品物状態である。香里が大変ねと、いった顔で苦笑している。

「え〜と、自己紹介いいか?」

 髪の毛がアンテナのように立った男が祐一に話しかける。

「ああ、すまん」 

「北川潤だ。昨日は早々と大活躍したらしいじゃないか」

 そう言って北川は右手を差し出す。その手を握り返しながら祐一は答える。

「そうでもないさ」

「一通り自己紹介もすみましたね。それじゃあ格納庫のほうで機体の紹介も済ませておきましょう」

 頃合を見計らい、秋子が祐一達に呼びかけた。

 

「それじゃあ、紹介をお願いします」

 デッキにて皆にそう言って秋子は一歩下がった。

「私から説明するね〜」

 のんびりとした口調で名雪が機体を紹介し始めた。

「一番デッキにあるフロート型ACが私の機体シティアベルだよっ」

 そう言って指差すデッキの上にはおそらくイチゴをイメージして塗ったであろう赤いACが鎮座していた。

「言ったとおりでかわいいでしょ」

 バズーカを装備した、フロート型AC。間違いなくヒット&アウェイ戦法だろう。

 名雪の言葉を意識的に無視して、祐一が簡単に分析していると、続いて北川が紹介をはじめる。

「んじゃ、次は俺だ。二番デッキ、重量逆間接ACアサルトワスプだ」

 重量逆間接に複数同時発射の垂直ミサイル、それに連動ミサイル。単位時間の攻撃力はすさまじいの一言に尽きる。

「けっこうすげぇだろ?」

 そう言って北川は笑った。

「それじゃあ次はあたしね」

 そう言って香里が説明をはじめる。

「三番デッキ、中量二脚ACワルキュリアよ」

 香里が言う機体はアリーナで見た白いACだった。

「こう見えてもお姉ちゃんはアリーナのトップレイヴンなんですよ」

 栞が誇らしげに補足した。

「確かに、いい腕だったからな」

 少々驚いた祐一がポツリと洩らした。

 それが聞こえたらしいが、戦闘など見せたことないと思っている香里はいったいどう言う意味なのか図りかねているようだった。

「それじゃあ次はぼくの番だね。四番デッキ中量逆間接ACエンジェルティアーだよ」

 黄色い逆間接のAC。機体の装備的に見て汎用型のようだ。

「次は真琴よぅ。五番デッキ、Naughty Foxよ。とっても強いんだから」

 昨日のテロのときに登場していた一機、四脚のAC。

「次は私ですね。六番デッキ、軽量二脚高起動型ACグレスタード・クライドです」

 同じく昨日登場していた一機、軽量二脚のAC。

「私の機体は七番デッキ、戦車型ACニフルヘイムです」

 七番デッキを見ると栞には似つかわしくないACが鎮座している。

 さすがの祐一も栞が戦車型ACに乗っているとは思わなかったようで、その驚きを表情に出さないようにするので手いっぱいだった。

「えぅ〜、何ですかその顔は?」

「いや、その個性的だなと……」

 どうやら顔に出ていたようだ。

「…………(ちょんちょん)」

 袖口を引っ張られる感触。それを感じて振り返ると、そこには舞が立っていた。

「説明………八番デッキ、剣姫」

 八番デッキに鎮座するのは中量二脚AC。両腕にブレードを装備した接近戦闘特化型の機体だ。

 よほどの自信からかコアの固定武装――EO――以外に飛道具は装備されていない。

「接近戦が得意なのか?」

 祐一に問いかけに舞がコクリと肯いた。

「あははーっ、佐祐理の番ですね〜。九番デッキ、重量二脚ACホーリーウインドです」

 しかし、九番デッキに機体はなかった。

「実は今修理中でここにはないんですよ」

 笑いながら佐祐理は補足した。

「最後は俺だな。知っていると思うが十番デッキ、中量二脚AC月影だ」

 

「昨日の男についての情報が入りました」

 そう言ってジャックスが切り出す。会議室。十五名ほどの人間が座っている。

「先日付けでKanonに所属した模様です。そのKanonの登録によると相沢祐一だそうです」

 その名前を聞いて、二人の男と一人の女――御神命――が反応を示した。しかしそれには気付かずにジャックスは続ける。

「相沢祐一という人物で調べたところ」

「世界最年少Sランクレイヴン」

 ジャックスの言葉を遮り一人の男が口を開いた。先ほど名前を聞いて反応を示した一人だ。

「そ、そのとおりです。しかし今のところそれ以上の情報は不明です」

 そう答えたジャックスの顔を見、ニヤリと男は顔をゆがめ語り始める。

「五年前、特殊戦闘小隊Moonに所属」

 その言葉に皆が息を飲んだ。

 特殊戦闘小隊Moon。その名前を聞くと、否応無く五年前の出来事を思い出す。

「実力は実質的にナンバー2。おそらく接近戦闘だけをするなら最強の男だ」

「お前ならヤツを殺せるか?」

 反応を示したもう一人の男が問いかけた。

「愚問ですな。同じ性能の機体ならともかく、私が乗る機体はMLAです」

邪悪な笑みを浮かべ男は傲然と言い放つ。その答えに問いかけた男も同じような笑みを浮かべた。

「以後作戦に障害ととなるようなら消せ。手段は問わん。ゲイツ、お前の好きにしろ」

「了解」

 男――ゲイツ=ガーランド――は短く答え、そのまま会議室を後にした。

 その姿を見送った後、命は残った男に声をかけた。

「隼人」

「なんです、姉さん」

 男――御神隼人――は答える。

 隼人と命は実の姉弟である。

「ヤツを使うしかないにせよ、好きにさせると被害が大きくなりすぎるぞ」

「仕方ないさ、あの男を使う以上多少の被害には目をつぶらなければならない」

 そう言って隼人も会議室を後にした。

「ジャックス」

「はっ」

「ゲイツについて動け。もし被害が広がりそうならできうる限りヤツをとめろ」

「了解しました」

 会議室がにわかに騒ぎ始めたが、そちらに気をまわす余裕など今の命にはなかった。

 

 

〜つづく〜


〜後書き〜 七話完成。
今回は機体の紹介が大半を占めました(汗
おかしいな〜
こんな予定じゃなかったのに(苦笑
まあ、後半の部分で色々と物語が進んでいるようなので、気にしない方向で(マテ
残り三話で第一章は終了予定です。
言うなれば起の部分が終わります。
承の部分が始まると……
おっと、ネタばれしかけた(笑

今後も応援よろしくお願いします。
ではでは、次の話で。

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