ARMORDE CORE 蒼紅の月

 

 祐一がKanonに所属して約一週間。

 その間、得に対した事件も無く、Kanon所属の少女達とも打ち溶け、平穏な日々が続いた。

 いや、祐一にとっては平穏でもなかったかもしれないが。

 

第八話 写真

 

「まてまてまて!!」

 格納庫内で祐一が声を張り上げる。

 レイヴンの少女達と祐一のやり取りである。

 そしてそれはここ最近の日常の風景であり。ゆえに格納庫内で作業していた整備士達も見向きもしなかった。

「何で俺がおごらねばならない!?自分達の金で行けばいいじゃないか!?」

「そんな事言うと祐一晩ご飯紅生姜づくしだよ」

「そんな事言う人嫌いです」

「ぽんぽこたぬきさん」

「祐一だからよぅ」

「うぐぅ。ぼくお金無いし」

 はぁっと祐一はため息をつき頭を抱える。そして思った、幼稚園児のほうがまだ聞き分けが良いと。

「大変ねぇ、相沢君」

 良識派の3人は苦笑ながらにその光景を見つめている。その中の一人、香里が祐一に声をかけた。

「そう思うんなら助けてくれ」

 祐一の涙ながらの願いを香里は一言で切り捨てた。

「あたしには無理ね」

 はっきりと祐一の表情が落ち込む。その一言が止めになったのは言うまでもないだろう。

「わかったよ。おごればいんだろ、おごれば」

「よし。そうと決まれば百花屋にゴーだ」

 突然現れた北川が場を仕切る。

「お前にはおごらんぞ?」

 その祐一の一言に北川の動きが固まる。ギシギシと音でも聞こえそうな動きで祐一を振り返る。

「友達だろう?」

「友達なら友人にたかるな!!」

 祐一の正論に、女性陣の一部の動きが固まる。いや、一部で無く半数異常、五名ほどがだ。

「そんな事言わずにさぁ」

「わかった。それじゃあ女性陣に判断してもらおう」

 そう言って祐一は女性陣のほうへ振り向く。

「それじゃあ北川におごるのに賛成な人?」

 含みを持たせた言いまわし。そこで言葉を止めある言葉をつけたした。

「ちなみに北川におごる分はみんなにおごる分から差しひ『反対』らな」

 満場一致で反対だった。しかも祐一が言葉を終えるよりも早く。

「だ、そうだ」

「どちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 北川は泣きながら走り去っていった。

『それじゃあ早速行きましょう』

 女性陣はそんな北川には目もくれていないようだった 。

 そのあまりの悲惨さに祐一は今度旨いものでもおごってやろうかと真面目に思った。

「わかった、わかった」

 そう言って香里達、良識派のほうへ向き直る。

「お前らも行くだろ?」

「(そういう性格だからいつもたかられるのよ(です・ですよ))」

 三人の意見はその一言に尽きるようだ。しかし――

「ええ(はい)」

 ――しかし、だからと言っておごって貰わない訳ではないらしい。

 

 薄暗い洞窟。自然にできたであろう洞穴に人の手が入っているのが見て取れる。

 それもACの格納庫。格納庫と呼ぶにはおこがましい程のつたない設備であったが、それは間違い無くACの運 用目的に作られたものである。

 そしてその格納庫内に収められた一機の紅いAC。

 そのそばにたたずむ一人の男。

 青い瞳、赤い髪、二十代半ばといったところだ。

 しかしその男がまとう雰囲気は普通の二十代がまとう雰囲気ではなかった。

 哀しみ、怒り、そして喪失。

 男は黙々と作業――ACの整備――を続けた。

 そして、ふと顔を見上げ作業台の片隅をみる。その視線はやさしくも、やはり深い哀しみにとらわれた視線だった。

 視線の先、そこに在るはほとんど粗大ゴミと変わらないような汚れたTV。

 そして一枚の写真。そこに写っているのは三人の男女。

 一人は写真を眺めている男。一人は白髪の女性。そしてその二人に囲まれるように一人の男。いや、一人の少 年が写っている。

 そしてその少年は――

 

 百花屋からの帰り、ふと香里が振り返ると、少しはなれた場所で祐一は空を見上げていた。

 他の少女達は雑談に夢中で気付いていないようだ。

「相沢く……」

 香里は祐一に声を掛けようとしたが、その表情に一瞬声を掛けるのがためらわれた。

 とても遠く、そして哀愁の漂う視線。

 その瞳はどこを見つめているのだろうか、そしてなぜそんなに哀しい瞳なのか。

 今にも祐一が消えてしまいそうな感覚にとらわれ、香里は慌てて祐一に声を掛けた。

「相沢君!!」

「ん?」

 その声に気だるげに振り向く姿は普段どおりの祐一だった。

「なんか用か?」

 呼びかけたまま何も喋らない香里を怪訝に思ったのか、祐一は先を催促した。

「ううん、何でもないの。ごめんなさい」

「そうか?ならいいが」

 納得していない口調。しかし祐一はそれ以上突っ込んでいかなかった。

 いや、むしろ何故自分に声が掛けられたかを納得していた故かもしれない。

「祐一〜、香里〜。何やってるの、置いてくよ〜」

 前方から名雪が声を掛けてきた。

 その声に苦笑しながら祐一は香里を振り返った。

「行きましょうか?」

「だな」

 そう言って祐一と香里は名雪達に追いつくために歩きはじめた。

 

 ――「……ルナ……祐一……」

 ポツリと男が洩らす。

 哀しい、哀しい瞳のままで。

 哀しみを降り切るかのように男は作業を再開する。

 そして一心不乱に作業を続ける。

 作業に集中する事によって哀しい過去を一時的にでも忘れられるからか。

 それとも、その作業が何らかの結果をもたらすのか。

 不意に男が作業の手が止まる。そしてTVに向き直る。

 普通のニュース番組だが、とある人物がそれに出てきた。

 その男は、

「ゲイツ」

 絞りだすかのように上げられたその声は、今までの声とはまったく違う異質なものだった。

 殺気をはらんだ声。いや、殺気ですら生優しいものであった。

「お前は殺す」

 

 

〜つづく〜


〜後書き〜
今回インターンシップ(課外実習)先でこのSSは仕上げました。
かなりハードです。
ちょっと短めかもしれませんが許してください(笑
明日は一周年記念SS上げないといけないし、どうしてこう色々と面倒事が続くのでしょう?(苦笑
まあ、祐仁さんから一周年記念SSも貰いましたし、悪いことばかりじゃ無いですけど(笑
さて、明日の一周年記念SSを完成させねば。

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