ARMORDE CORE 蒼紅の月
「はあ、守備ですか?」
突然の秋子からの呼び出し。執務室で理由――それは予想はついていたが――をたずねると、予想どおり仕事の依頼であった。
そして、その仕事の内容がそれであった。
「はい。アマテラスからAC用パーツ工場の守備の依頼です。もともとの守備隊はもちろんいます。しかし最近のテロは大規模ですから、念のため保険だそうです。」
にこやかに秋子はそう答えた。そしてふと何かに思い当たったのか表情を曇らる。
「お嫌でしたか?」
どうやら祐一の問いかけを否定の意として受け取ったらしい。
「いえ、そう言うわけでは。仕事の内容に驚いただけです」
「それではこの仕事、お願いしてもよろしいですか?」
「かまいませんよ」
特に問題も無いので祐一は簡単に引き受けた。
そして仕事の要点を秋子にたずねていく。
「それで、何人で守備を?」
「祐一さんを合わせて三人です」
「誰と誰ですか?」
「祐一さんのお好きに決めてください」
その言葉に思わず祐一は秋子に問い返す。
「はっ!?」
「祐一さんのお好きに決めてください」
返ってきたのは一字一句違わぬ言葉であった。
第九話 紅きAC
「これがおおよその仕事の内容だ」
手元の資料の仕事の内容を読み上げ前方の二人、香里と名雪に視線を送る。
「守備任務なのはわかったけど、何であたし達なの?」
「今回の仕事は守備だからさ」
祐一のその答えに二人はさらに疑問を募らせる。
「もう少しわかりやすく言うと、今回の仕事で必要なのは機動性と攻撃力のバランスだからだ」
その言葉で香里は合点が言ったと言う表情になった。しかし、名雪はまだ悩んでいるようだ。
「祐一、ぜんぜん簡単じゃないよ〜」
その言葉に祐一と香里は同時にため息をついた。
「いいか、名雪。今回の任務は守備。ここまではわかったな」
仕方なく祐一は噛み砕いて説明することにした。
「守備と言うことは攻めてくる敵機をすばやく迎撃できないといけない。攻め込まれている地点まですばやく移動しなければならない」
そこまで言いきり、祐一は名雪に「わかったか?」と言う視線を送る。
「うんうん、そのとおりだよ」
その視線を感じてか、名雪は仕切りに肯く。しかし、わかったようなわからないような微妙な表情であった。
「そして早く倒せるだけでも、早く移動できるだけでもだめ。早く倒せて、早く移動しないといけない。さっきも言ったとおり今回必要なのは機動性と攻撃力のバランスだ」
そこまで言いきったときはじめて名雪は理解できたと言う表情になった。
「でもそれなら真琴ちゃんやあゆちゃんでも良かったんじゃないの?」
「機体的に問題は無いが真琴は一人でつれていくと何をしでかすかわからないからな。美汐がいれば問題ないんだが、今回は不可だからな。それであゆ、これも俺が苦労するのが目に見えてるからだ」
二人が聞いていればただじゃ住まないような事をハッキリと言いきった。
「それとな、あいつらに囲まれて一週間も守備任務やっていると、間違い無く俺の胃に穴があく……」
しかし、その哀愁の漂う姿を見て、二人ともそのことを突っ込む事はできなかった。
はじめの二日は問題無く過ぎ、そして三日目。その日は朝から激しい吹雪が吹いていた。
「すごい雪だね〜」
窓の外を眺めていた名雪は後ろの二人、祐一と香里に同意を求める。しかし、後でチェスをしている二人に反応は無かった。
「チェックメイトだ」
「待って」
「駄目だ。さっき香里も言ったじゃないか。真剣勝負に待ったは無いって」
「……どうしても駄目?」
少しうつむき、見上げるように祐一に問う。上目使い。いつぞやかに祐一に使い高い効果があったものだ。
効果の程を知った香里はそれをマスターしたらしい。
「だ……駄目だ」
「(うるうる)」
瞳を潤ませ祐一を見上げる。すでに陥落寸前の祐一にそれを絶えるきる余裕は無かった。
「……わかったよ、香里の好きにしてくれ」
「う〜香里が私を無視して祐一を誘惑してるよ〜」
「「え??」」
二人がはもった。そして顔を見合わせ、現在の状況を確認。
チェス番をはさみ香里は祐一に寄りかかるような体勢である。先ほどの上目使いのためだ。
そして潤んだ瞳。おそらく百人が百人誘惑していると答えるであろう。
「ち、違うわよ!」
その真っ赤になって否定する姿は祐一の失笑を誘った。
「敵機発見、一機」
指令室に声が響いた。それにより、一気に指令室内部が慌ただしくなっていく。
「警報」
その言葉に反応して通信士が警報を発令。一気に工場内が警報の騒音に包まれる。
「守備隊に連絡、迎撃に出させろ」
「了解」
「続いて、Kanonにすぐに出撃できる状態にさせておけ」
「守備隊発進。敵機の現在確認できている数は一機。増加の可能性が高い。注意して迎撃にあたれ」
『了解』
ビーッ!ビーッ!
「「警報!?」」
その音に祐一と香里は同時に反応する。
警報に次いで通信が入る。
「こちらKanon」
『敵機の接近を確認。現在守備隊が迎撃にあたっている。Kanonはすぐに出撃できる状態で待機』
「了解」
手早く通信を終え、祐一は命令を飛ばす。
「第二種状態で待機だ。急げよ」
「「了解」」
三人は格納庫へ向け駆けだした。
「あれだ。アルファ3、敵機視認。中量二脚型ACが一機」
先行していた守備隊のうちの一機が敵機を捕らえた。
紅いAC。それはアマテラスの秘密基地を一機で陥落させたAC。
不幸なことに守備隊の中に、いや、アマテラスの中にそれを知る者はいない。
「たった一機でご苦労な……」
それが彼の言った最後の言葉であった。
正面から突っ込んだ守備隊の一機は一瞬でコックピット部を撃ち抜かれ沈黙した。
それを成した紅いACは無人の野を行くかの如く、ゆっくりと工場へ向け歩んでゆく。
「アルファ6、アルファ7援護射撃、それに合わせて後に回りこむ。アルファ2、アルファ4ついて来い」
「「「「了解」」」」
すぐさま六番機と七番機が射撃を開始する。
一番機を先頭に二番機、四番機が紅いACに向け駆けぬける。
紅いACに円を書くように向かっていく。
その時紅いACが後に一気に跳躍した。
結果、三機の守備隊のACは紅いACに無防備に横腹をさらすことになった。
三条の光が瞬く。次の瞬間、三機のACが爆発炎上する。
援護射撃をしていた二機には突然炎が広がったように見えた。
「「な!?」」
その炎の中からACが現れる。その紅い装甲に炎を映しながら。
残りの二機が炎に包まれるのはそう先のことではなかった。
「気をつけろ。一機で守備隊を壊滅させる腕だ」
ハッチを開放しながら、祐一は二人に注意を促す。
「その戦闘能力、間違いなくAランクの腕ね」
香里が誰にともなく呟く。もしかしたら敵機の能力を考えていたのかもしれない。
「いや、恐らくそれ以上」
「えっ、祐一どういう意味?」
世間一般には知られていない。いや、普通のレイヴンですら知らない最高位ランクS。
祐一が指したのはそれである。
「いや、何でもない。……ハッチ開放、出撃!!」
「「了解」」
そこは炎の海となっていた。
破壊し尽くさんばかりに紅いACが銃口を工場へ向ける。
ドンッ!!
紅いACの足元に着弾。いや、一瞬早く紅いACがかわしたのだ。
そしてゆっくりと射撃地点へふり返る。
「!?」
そのACを見た瞬間、祐一は声にならない声を上げた。
〜つづく〜