ARMORDE CORE 蒼紅の月

  

「あれは……」

 蘇る記憶。それは月の記憶。

 紅い月と銀の月。

 そしてそれは――

「クリムゾンムーン……」

 ――優しくも哀しい過去との邂逅。

 

第十話 フォイール・オブ・フォーチュン

 

「下がれ!!」

 祐一の怒号が飛ぶ。今まさに敵機に向かって行こうとしていた香里と名雪の動きが止まる。

 動きを止めたのを確認した後、祐一は無線の周波数を変える。

 その周波数は――

「アル、アルななんだろ?」

 ――特殊戦闘小隊Moonが使用していたの周波数。

 その呼びかけに答えは返って来ない。

 しかし、紅いAC――クリムゾンムーン――の動きは停止した。

 更に祐一は呼びかける続ける。

「俺だ。わかるか祐一だよ。アル、聞こえているんだろう?アル!!」

「どうしたの相沢君?」

 その祐一に香里からの通信が入る。

 急に静止した祐一を怪訝に思っているのだろう。

「仕掛けるわよ」

 攻撃の催促。当然だろう。今は戦闘中なのだ。一瞬の迷いが死につながる。

「待ってくれ」

「どうしてよ!!」

 香里が声を荒げる。

「あれは……俺の知りあいなんだ……」

 苦虫を噛み潰したような表情で祐一は答えた。

「なあ、アルどうしてこんなことを……」

「……退け」

 その声は祐一の知るアルの声ではなかった。正確には声の持っている雰囲気がまったく異なっていた。

「もう一度言う。退け」

「駄目だ!何でこんなことをする?これじゃあテロリストと変わらないじゃないか!!」

 過去のアルとはまったく違う。無差別な破壊をアルは誰よりも嫌っていたはずだ。

「最終通告だ。次は撃つ。退け」

「俺はアルと戦いたくない。やめてくれ!!」

バシュゥッ!

 銃撃。一瞬前まで祐一が居た場所をアルのはなった光弾が通過する。

 少しでも祐一の反応が遅れていたら直撃だっただろう。

 いや、正確にはかする程度の銃撃だったからこそ避けられたのだろう。

「相沢君!!」

「祐一!!」

 二人の声が響く。

 アルはその銃撃による爆炎を目くらましに機体を転進、次の工場へ向かう。

「香里、名雪。工場の救助と避難を頼む、俺はアルを止める」

「でも」

「頼む」

 そう言って祐一は一気に間合いをつめ始めた。

「もうっ、……名雪、救助に行くわよ」

 二人は燃えさかる工場のほうへと機体を進めていった。

 

 アルの機体に比べ祐一の機体は圧倒的に機動性で劣る。

 普通に追っていたのでは追いつくことは不可能である。

 仕方なく祐一はOB――オーバード・ブースト――を起動させる。

 同時に肩に装備されたミサイルと迎撃ミサイルをパージ、機体の軽量化を図る。

 OBの圧倒的な速度を使い、一瞬で距離を縮めそして前方へ回りこむ。

「アル!!」

 ゆっくりとアルがその機体を止める。

「祐一。わかっているだろう、MLAはMLA以外では止められない。このイクリプスを止める手段はお前に無い」

 祐一のコックピット内にアラームが響く。無論ロックオン警報だ。

「それでも……それでも俺はお前を止める。それがアル、お前とルナとの約束だからだ」

 その言葉とともに左手で突き付けられた銃口をそらす。そして右手のライフルを発射。

 しかしアルはそこには居なかった。圧倒的な運動性で飛びすさったのだ。

「(まずい!!)」

 アルの機体は射撃戦特化型機体。右手に装備されたレーザーライフルを食らってはひとたまりもない。

 それゆえに距離をとられると状況は一気に不利となる。

 しかし、それ以外にも不利な材料はある。祐一の得意な戦闘が高起動接近戦であるからだ。

ドシュゥゥゥッ!

 祐一が慌てて飛びすさった場所へアルのライフルが直撃する。

「ちぃっ!」

 爆発の衝撃により煽られる機体を必死になって制御する。

 機体を制御しながら祐一はOBを起動させる。起動より一瞬遅れて爆発的な加速力が祐一を襲う。

 連射性がそれほど良いわけでないレーザーライフルの欠点をつき、接近戦に持ち込もうと言うのだ。

 一気に差をつめる。しかし、次の瞬間アルの機体の上に小型のビットが出現する。

 そしてそのビットからレーザーが連謝される。

 EO――イクシード・オービット――である。

 その攻撃を回避する。しかしそれは致命的な隙となる。

 アルの機体は次の攻撃の準備が整っている。そして祐一の機体の左腕は弾け飛んだ。

 圧倒的な機体性能。勝つには腕でカバーするしかない。そしてアルはそれができる相手ではなかった。

 

「名雪、そっちは?」

「こっちはすんだよ。もうこれでお終いじゃないかな」

 一方香里と名雪は救出作業を終え、脱出に掛かろうとしていた。

「それじゃあ脱出隊の護衛を頼める?」

「了解だよ。香里はどうするの?」

 脱出隊の横に並びながら名雪が問う。

「あたしは相沢君の援護に行くわ」

 レーダーを見ながら香里は答えた。

「それじゃ、頼んだわよ。名雪」

 レーダーで祐一の位置を確認した香里はOBを起動した。

 

「くそっ!」

 左腕を持っていかれた。それは暗に接近戦を封じられたことになる。

 続けざまに放たれる攻撃を避けながら祐一の思考はめぐる。

「(接近戦での攻撃手段は無し。射撃武器をライフルが一丁。くそっ!!手がねぇ)」

「ACを止めろ。それで終わりだ」

 その祐一にアルからの通信が入る。

「俺はお前を殺したくない」

「……なら素直に止まってくれよ」

 無駄だと思いながらの反論。その声に被せるようにアルの言葉が掛かる。

「ヤツを、ヤツを殺すまで俺は止まれん。それが例えお前の頼みでもだ」

 ゆっくりと機体を祐一の目にさらす。

「イクリプス、これが今の機体名だ。そして過去を清算するためのな」

「過去を……?」

シュンッ!

ドゴォォォォォォン!!

 一瞬の風きり音に次いで激しい着弾音。祐一とアルの間に着弾したのは間違い無くグレネード弾である。

 そしてこの戦場でグレネードを装備している機体は――

「香里!?」

 ――香里だけである。

 祐一とアルが気付かなかったところを見ると、恐らくエクステンションのステルスを起動させていたのだろう。

「大丈夫、相沢君?」

「ああ。救助は?」

「終わったわ。今は名雪の護衛で脱出しているところよ」

 その通信を聞いてアルの表情ががらりと変わる。

「くそっ!」

 それはこの戦場で始めて聞くアルの感情的な声だったかもしれない。

「祐一、次は邪魔をするな。俺はお前を殺したくない」

 その一言を残し、アルは機体を転進。止みの中へと消えていった。

 

「何でいまさら撤退を……」

 祐一に近づきながら香里が疑問を口にする。

「理由はある。作戦目標だ。アリーナが主なレイヴンにはわかり難いかもしれないが、作戦目的をこなせなくなった時点で敗北と言っていい。だからさ」

「言われてみればそうね」

「香里、最初の遭遇ポイントにミサイルポッドと迎撃ミサイルをパージしてきた。悪いが拾ってきてくれないか」

 祐一のその一言に香里は意地の悪い笑みをを浮かべた。

「貸し一つよ」

 力無い笑みを浮かべ――香里には見えていないが――祐一はいつもどおり返した。

「百花屋で一品な」

 香里が遠ざかっていく音を聞きながら祐一はアルの言葉に心をめぐらせる。

「過去か……」

 

 運命の輪がくるくると回り始める。

 

 

〜第一部 完〜


〜後書き〜
第一部終了。
長かったな〜
約二ヶ月間かな。
まあこれから第二部の執筆に入りますけど(笑
あと機体構成、後一日待って(ぉぉ
間違って上書きしちゃって書きなおさないと(涙

ではでは、次回第二部で。
それでは。

戻る