ARMORDE CORE 蒼紅の月
任務、アリーナ。どれを取っても順調であった。
すぐさまランクが上がっていった。
周りに天才と呼ばれるようになるまでに、そう時間はかからなかった。
第四話 Sランク
祐一がレイヴンになって約1年。祐一の手元に一通の書状が届いた。
その書状によると――
「Sランク昇格か……」
――との事だった。
祐一自身は特にランクなどにこだわっていなかった。
いや、むしろそう言うランク付け嫌っていたふうにも見うけられた。
彼自身の考えを言うと、大切なものを護れるだけの強さがあればそれで良いのである。
「アリーナで対戦?」
書状は昇格通知だけでなかった。昇格通知と一緒にアリーナでの対戦依頼も入っていた。
「(アリーナは好きじゃないんだがな……)」
さりとて依頼を断る理由も無い。嫌いだからと言って断れるわけも無い。
状況に流された感じになったが、祐一はその依頼を引き受けた。
「相沢祐一さんですね? 私、今回相沢さんのオペレーターをまかされました、アリシア=牧村です。はじめまし て」
アリーナに到着した祐一をアリシアと名乗る少女が出迎えた。
「あ、いや……こ、こちらこそはじめまして、相沢祐一です」
突然の事に祐一は目を白黒させながらも何とか返事をすることに成功した。
「はい。よろしくお願いしますね」
明るく返事を返してくる。同年代とくらべ少々枯れている祐一とは比べるまでもない明るさである。
「それではデッキのほうへ案内しますね。私の後に付いてきてください」
「よ、よろしく」
祐一はそのバイタリティの強さにに少々押され気味である。
テキパキとした足取りで進んで行くアリシア。その歩調を見る限り、とても優秀なオペレーターであろう。
その背に祐一は疑問を投げかけた。
「一つ聞いても良いか?」
「はい。私の答えられる事でしたら何でも」
「スリーサイズは?」
……こう言うときにボケずには居られない祐一であった。
「上から80ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
アリシアはアリシアでノリが良かったらしい。いや、むしろ天然と言うべきか?
「す、すまん。冗談だ」
思わず答えてしまい、真っ赤になっているアリシアに祐一はフォローを入れたつもりであった。
実際はフォローになどなっていないのだが、おおよそそう言う事に本人は気が付かないものである。
そして例の漏れず祐一も気が付いていなかった。
「えっとな、本当は今日の対戦相手の事が知りたかったんだ」
その言葉に、今だに顔は真っ赤にさせているがアリシアは手帳を取りだし調べ始める。
まさしくプロである。
「え〜と、本日の相手はSランクレイヴン、アルバート=ハーヴィーさんです」
「アルバート=ハーヴィー!?」
アリシアの口から紡ぎ出された名前に祐一は思わず声を上げた。
「お知り合いですか?」
「いや、知り合いと言うわけではない気がするが……それで戦績は?」
祐一のその言葉にアリシアは怪訝な顔をする。だが深く詮索はせず、祐一に情報を告げる。
これ以上無いほどプロである。
「ここ最近、一ヶ月ほど前に機体を乗り換えています。それからの戦績は……すごい。全戦全勝、それも一発も被 弾してません」
さすがの祐一もその戦績は予想だにしなかった。
「マジか?」
「本気と書いてマジです」
そう言って持っていた手帳を祐一の目の前に広げる。
これ以上無いぐらいマジだった。
「今日の夕飯は何にするかな」
「げ、現実逃避しないでください。本当に最年少Sランクレイヴンですか!?」
アリシアの叱咤激励が飛ぶ。
まあ、叱咤激励で勝てれば世の中敗北者など居なくなるであろうが。
「いや、しかし相手もSランクだぞ。しかもここ最近の戦績、Sランクの中でこんな事が出来るなんて化け物だ。今 日始めてSランクで戦闘する俺が勝てるわけ無いだろう?」
「相沢さん、貴方は敗北主義者です!!」
よくわからない誹謗中傷が飛んだ。さすがの祐一もこれには言葉を――
「誰が敗北主義者だ!!」
――失ってなかった。
「始めから勝つ気が無いなら勝てる分けないじゃないですか!!」
まったく持って正論である。
奇跡と言うものは最後まで諦めない者に起こるものだ。
「……まったくだな」
「相沢さん?」
急におとなしくなった祐一に不安を覚えたのか、アリシアは祐一の顔を覗き込んだ。
「ま、精一杯やるさ。戦闘なんて物はやって見ないとわからないものだからな」
そう言う祐一の顔には自身が満ち溢れていた。
「それでこそです」
そんな祐一に、アリシアは最高の笑顔で答えた。
「今回の相手は最近話題になってる少年よ」
コックピットに顔を突っ込むような体勢で女性――ルナ=アーエス――が告げた。
「……相沢祐一?」
自分の記憶が曖昧だったのか、アルは合否を問うような口調でその名を口にした。
「当り〜」
無駄に明るくルナは正解を主張する。
「なるほど、あの少年か……」
アルが呟くように洩らしたその声をルナは聞き逃さなかった。
「知ってるの?」
「ああ、1年前だったか……レイヴン試験の試験員をやった事があったろ。アレで俺と戦闘して生き延びたヤツだ」
それを聞いたルナは「ははぁ〜ん」と言う顔をした。
「倒せなかった事を根に持ってるのね」
「俺はそんなに根暗か!?」
その言葉に本気であるは食って掛かった。
無駄にガキっぽい。ちなみにその事に本人は全く気が付いて無かったりする。
「やあねぇ、冗談よ。冗談」
「お前の冗談は、冗談に聞こえないんだよ」
本気で毒づくのはアルが子供だからか、はたまたルナへの信頼の現われか。
「アレからどれだけ強くなってるのか?って考えてるでしょ」
「お見通しか?」
「だって単純だもんね。アルの頭の構造は」
「このっ!!」
アルの手がルナの頭を叩こうと振るわれた。しかしそれは簡単にルナにかわされる。
それをかわしたルナは「ほらね」っと言う表情をした。そして不意に真顔に戻り告げる。
「私の作った機体に乗ってて負けるなんて許さないからね」
「そんな気は無いさ」
そう言って、どれだけ成長しているか想像する。
「たった1年でSランクに昇格するような相手だ。油断は禁物。今までで最強な相手だと思って戦うだけさ」
「よろしい」
そう言ってコックピットから離れる。
プシューッ!
軽い音をたてコックピットハッチが閉じる。
タラップに立つルナは右手を掲げ――
ぐっ!
――親指を立てる。
それを追うようにして紅いACも右手を掲げ――
グッ!
――親指を立てた。
ガシャンッ
AC固定用のロックが開放される。そしてゆっくりとアルは戦場へと機体を進ませ始めた。
〜つづく〜