ARMORDE CORE 蒼紅の月
アリーナ――闘技場――の中心で対峙する紅と蒼のAC。
祐一にとってはSランクに上がっての初の戦闘であり、 因縁の相手との戦闘であると言える。
アルにとっては……そう、楽しみな戦闘であった。
初の実戦にして本気でないにせよ、自分と対等な戦いをした男との戦闘なのだ。楽しみでないわけが無い。
そして厳かに戦闘の開始が告げられる。
第五話 紅と蒼
戦闘開始の合図と共に双方は機体を左前方へと加速させた。
開始時の双方間の距離は1000。接近戦を主に組まれた祐一の機体――蒼刃――は元より、アルの機体――クリムゾンムーン――も有効射程外であったからだ。
余談ではあるが、ほとんどのレイヴンがアリーナにおいては機体を射撃戦を主に組む。その理由は開始時のその1000と言う距離に置ける部分が大きい。
双方共に武装を除けば機体は同じく高起動型。1000と言う距離が有効射程まで詰まるのは一瞬であった。
バシュウッ!
先制の攻撃はアル。装備された強力なエネルギーライフルによる射撃。その攻撃を祐一は機体の体を捌くことで回避する。
「(なっ!?)」
その動きにアルは驚いた。
単純に自分の攻撃が回避された事に驚いたわけではない。その体捌きの速さに驚いたのだ。
「迅い……Sランクでもあの速さで体捌きが出来るヤツは居ない……」
遠距離戦においては、それは技法で終わるだろう。しかし、接近戦においては最大の武器となる。祐一が接近戦を主に戦ってきた末に身に付けたものであった。
次の瞬間祐一が攻勢へ出る。
バラララララララ!
狙っての射撃でなく方位のみの射撃。弾幕を張るような撃ち方で祐一はマシンガンを連謝する。
射線では簡単に回避されるからだ。
それをアルは右前方へと加速を切り返す事で回避する。
回避される事を意にも解さず弾幕を張りながら祐一は一気に間合いを詰める。
それに対し、アルは距離を取ろうとしたが前方に機体を加速させていたため、思うように距離を取れなかった。
そして2機のACが交錯した。
「ちいっ!」
「もらった!!」
反射的にアルがブレードを形成するが、一瞬早く祐一がブレードを振りぬいた。
ヂインッ!!
鈍い音を立てクリムゾンムーンのレーダーが斬り飛ばされた。ブレードは間に合わないと判断したアルが、反射的に機体を屈ませたのだ。
「「(やるっ!?)」」
間合いは完璧であった。それでなを回避するアルの技量に祐一は舌をまいた。しかしそれはアルも同じ事であった。自分がこれほど簡単に接近戦に持ちこまれるとは思っても見なかったのである。
交錯したスピードのまま双方は距離を取った。
オペレーター席で勝敗の行方を見守っていたルナは驚きを隠せなかった。
アルとクリムゾンムーンが、こうも簡単に一撃をもらうとは思っても見なかった。
自分が組んだ機体――MLA01−A クリムゾンムーン――の性能はうぬぼれでなく一級品。
「クリムゾンムーンにのったアルに当てた?……それをこうも簡単に? すごい……」
ルナは驚きと同時に祐一に興味を持った。
若干十五歳にしてSランクレイヴン。そして圧倒的な戦闘技能。
ルナは少々考え込んで、そして一言洩らした。
「スカウト決定ね♪」
パンッ!
コンソールを操作し、アルは切断されたレーダーをパージする。
仕切り直し。
双方共に無言で対峙する。まるで先に動いたほうが負けるかのようだ。
キュゥゥゥゥゥゥゥ!
次の瞬間、蒼刃が低い音を発する。OB――オーバード・ブースト――を起動したのだ。
OBは多大な発熱、エネルギー消費と引き換えに、人間の知覚速度を遥かに越えたスピードを出す事が出来る。
ドォォォォォォォォン!!
一瞬の間を置き、コアに装備された大型ブースターが火を吹く。
すさまじい加速Gがコックピット内の祐一を襲う。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」
祐一が吠える。それは襲ってくるGに耐えるためか、それとも一撃に全てを賭けたためか……
軽く蛇行しながら蒼刃は一瞬で間合いを詰める。その速度にクリムゾンムーンは完全に蒼刃をロックしきれない。
射迎撃を諦め、アルは回避行動に移る。
OBで間合いを詰めての接近戦を回避するのは簡単である。OBはその性質上、ほぼ直線的な動きしか出来ない。始めから避けるつもりなら、プロのピッチャーが投げる球を避けるのが簡単なのと同じである。
案の定、アルはそれを素早く左に移動する事で簡単に回避する。しかし――
「ぐぅっ!!」
――ブレードの間合いに入る一瞬前に祐一はOBをカットしていた。そして慣性のままに進む機体を一気に右へ、アルの回避した方向へ回転させる。
その限界を越えた行動に機体の各所が悲鳴を上げる。コックピット内でも機体の軋む音が聞こえるほどだ。それ以上にコックピット内の祐一を激しいGが襲っている。
祐一は激しいGに飛びそうになる意識を必死になって繋ぎ止める。
その朦朧とした意識の中、祐一の視界に紅い機影が映る。その瞬間、祐一はほとんど無意識にブレードを振りぬいた。
ヂュィィィィィンッ!
それは確かな手応えであった。ほとんど意識の無い祐一もそれを知覚できた。
そして一気に、それこそブレードが消失するよりも早く機体を後退させる。し止めた敵機の爆発に巻き込まれないようにだ。
この動作はほぼ無意識状態の中、行われた。いわば刷り込まれた動作であるからだ。
いつもなら止めを刺せているか確認するのだが、今回は祐一の意識がはっきりしていないためにそれが行われなかった。
それが祐一の犯した致命的ミスとなった。
クリムゾンムーンは健在だったのだ。正確に言うなら左腕部を失ってはいるが。
ブレードが直撃する瞬間、左腕を盾にしてコアへの直撃を防いだのである。
もし祐一が意識がしっかりしていたのなら止めを刺せていただろう。しかし、もうその距離はライフルの間合いまで広がっている。
けたたましいロック警報が祐一の意識を覚醒させる。
慌てて現状を確認、回避行動に移る。その時――
メキャッ!!
――鈍い音を立て左膝関節がへし折れた。
限界を超え機体を酷使したツケが最悪のタイミングでまわってきた。
たまらず蒼刃は崩れ落ちる。その頭部をアルは――
バシュゥッ!
――正確に撃ちぬいた。
戦闘時間十分三十八秒
WINNER
アルバート=ハーヴィー&CrimsonMoon
電工掲示板が勝利者を告げる。長い戦闘を制したのはアルであった。
〜つづく〜