ARMORDE CORE 蒼紅の月
「また負けちまったな」
デッキ。コックピットから降りた祐一は蒼刃を見上げていた。
膝部が砕け、頭部を失った蒼刃。そしてアリーナで初の敗北。
しかし、不思議と祐一は悔しさを感じていなかった。むしろ充実感が祐一の胸を満たしていた。
「相沢さん」
そんな祐一に声が掛けられる。アリシアであった。
「お疲れ様でした。先ほどの戦闘も膝部が砕けさえしなければ祐一さんの勝ちだったのに」
「仕方ないさ。膝が砕けたのは俺が機体の限界を無視して戦ったせいだし、そうしなければもっと簡単に負けて居たさ」
そう言って祐一は笑った。
「それで相沢さん、面会をしたいと言う人達が着ていますが」
「面会者?」
「はい、面会者です」
俺の知り合い、この辺に居たっけ? と首を傾げる祐一。
「それで、どうしますか?」
「あ、ああ。それじゃ悪いんだけどミーティングルームの方へ連れて来てもらえるか?」
「はい」
元気良く答え、アリシアは面会者を迎えに行く。
「面会者?」
そんなアリシアを知り目に、心当たりの無い祐一は首をかしげるばかりであった。
第六話 月よりの使者
「「はじめまして、相沢祐一君」」
アリシアにつれられてきた面会者者達が同時に言った。
紅い髪、青い瞳の青年と銀色の、いや白色の長髪、紅い瞳の女性であった。女性は極端に色素が少ない……アルビノ。
「どうもはじめまして、相沢祐一です。それで何の用でしょうか?」
祐一はふと青年の声に聞き覚えがある気がした。しかし顔には全く記憶が無い。気のせいだなと思考を中断させ答えた。
「おっと、すまん。自己紹介がまだだったな」
すまん、すまんと頭を掻きながら青年は続けた。
「俺はアルバート=ハーヴィー。それでこいつが……」
「ルナ、ルナ=アーエスよ。改めてはじめまして」
アルは簡単にルナは丁重に頭を下げた。
「アルバート……ああ!?」
その名を聞いて祐一は驚いた。当然だろう。先ほどまで戦闘していた相手であるのだから。
そんな祐一に微笑みを覚えながらルナは言葉を続けた。
「相沢くん、貴方に最高の機体を作ってあげる」
ガンッ!!
その言葉を言い切るか切らないかのタイミングでアルが激しくテーブルに頭を打ちつけた。まあ、ようはコケたのである。
「痛てて……な、なあルナ、そのセリフはいったい何を考えて?」
痛みにうめきつつアルが問う。その問いにルナは何を馬鹿なと言った表情で答えた。
「何ってスカウトに決まってるじゃない」
「何処がだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
アルの絶叫がミーティングルームに響き渡る。
すでに祐一は状況に取り残されていたりする。
それからおよそ2分間、アルとルナの口論が祐一の目の前で展開された。
さすがの祐一も頭痛を覚え始めたころ、二人の間で決着が付いたようである。
「すまん、話を戻そう」
いや、どうも半眼、ジト目の祐一に、二人が気付いただけのようである。
「単刀直入に言おう。相沢くん、俺は君をスカウトに来た」
祐一にはなんとなく予想は付いていた。今まで何度となくヘブンズ、アマテラスにスカウトされてきたからだ。
そして祐一はそれらを全て断ってきた。
戦うためにレイヴンになったんじゃない。失わないため、護るためにレイヴンに、力を求めたのだから。
「せっかくスカウトに来て頂いて申し訳ありませんが、僕は軍に所属する気はありません。お断り」
そしれ今回もそれを断るつもりであった。
しかし、それを――
「Moon The Special Tactics Platoon」
――美しいソプラノボイスが遮った。
ルナである。先ほどの印象とはうって変わって、その知的な風貌に似合った落ち着いた声音であった。
「特殊戦闘小隊Moon!?」
Moon The Special Tactics Platoon――月の特殊戦術小隊――。
通称、特殊戦闘小隊Moon。
何処の機関にも所属しない特殊部隊。
公式に発表のない部隊。知られているのは名前だけ。構成隊員の名前は元より、装備、機体ともに闇に包まれている。
対テロ以外に出場を目撃された事は無い。
そして対テロにおける鎮圧率は100%。その戦闘能力は軍は元よりヘブンズ、アマテラスすら上回る。
その名前から冗談本位に月よりの使者と呼ぶ者すら居る。
「………………」
考え込む祐一に、アルが明るく告げる。
「俺相手に互角、いや、それ以上に戦えたのはお前だけだ。絶対入隊してもらう」
そこでニヤリと笑い続ける。
「断っても無駄だ。俺はお前に惚れたからな」
ガタンッ!
驚愕の表情を浮かべ、急にルナが立ちあがった。
「ど、どうした?」
あまりに急なことに祐一もアルも怪訝な顔をしている。
「ア」
「あ?」
「アルが」
「俺が?」
「まさか」
「まさか?」
「男色だったなんてぇぇぇぇぇ!?」
「「え゛!?」」
何故か一緒に祐一も声を洩らした。先ほどの知的な印象をぶち壊しながらルナが続ける。
「だから何時まで経っても私に手を出してくれないのねぇぇぇぇ!?」
色々と問題発言だった。いやまあ、何とは言わんが、祐一など真っ赤になってしまった。
「だ、誰が男色か!!」
そのルナの発言に被せるようにアルが声を荒げる。
そしてまた口論が始まる。
何処までいってもシリアスになりきれない二人組みであった。
後で祐一が赤い顔のまま途方に暮れたのは言うまでも無い。
結局祐一はスカウトに同意した。
それを決心させる明確な理由があったわけではない。しかし祐一は同意した。
はっきり言えば祐一はアルとルナが気に入ったのだ。
一流レイヴンであって、人間臭さが一般人よりも強いこの二人が。
この二人の部隊なら入っても良いと、漠然と思ったのだ。
「「ようこそ、Moonへ」」
そのまま二人に迎えられ、祐一はMoonへと入隊した。
満月の輝く、静かな秋夜の事であった。
〜つづく〜