ARMORDE CORE 蒼紅の月

 

「さて、自己紹介に行こうと思うんだが……実は小隊と言うくらいだから人は多くない。いや、全く居ないと言う方が正解か……」

 アルのその言葉に祐一はぐるりと周囲を見渡す。

 男三人、女二人。無論、アルとルナを含めてだ。

「もしかして……これで全員?」

「もちろんだ」

「流石にこれは少な「それじゃあ自己紹介、行ってみようか!!」か?」

 祐一の言葉を無視し、アルは話を進めた。

 

第七話 Moon入隊

 

「それじゃ、俺からだな。ロバート=ラス。乗機は……ほら、あそこの黒い逆足のAC。名前はナイトメアだ。一応、と言うか人数不足だからなんだが、メカニックも兼ねている。よろしくな」

 ぱっと見で優男と言う印象を受ける男である。

 もし背広でも着ていたらレイヴンと言われても信じまい。どこかの青年実業家と言われる方が納得できる。

「次は私ね。イーリス=シルフィード。ここのチーフメカニックよ。と言っても、メカニックチームなんて無いんだけどね。よろしくね」

 金髪のセミロング。切れ長な双眸。やりてのキャリアウーマンと言った感じの女性である。

 ルナとは全くの正反対なタイプだ。

「ゲイツ=ガーランド……乗機はイレイザー」

 淡々と冷たい声が響き渡る。

 レイヴンを絵に描いたらこう言う男になるだろう。

 あくまでも冷淡で、人とのコミュニケーションを必要としない。

「無口で無表情で無愛想」

 後にアルがゲイツを表していった言葉である。

「相沢祐一です。本日よりMoonに参加する事になりました。乗機は軽量二脚型AC、蒼刃。よろしくお願いします」

 祐一の自己紹介の終了と同時に質問が浴びせ掛けられる。そんな歓迎の雰囲気の中、祐一の名前を聞いたゲイツの表情が険しくなっていた。

 しかし、皆の視線が祐一に集中していたためにそれに気が付く者は居なかった。

 

「「うそだろ(でしょ)!?」」

 ドックに運び込まれたクリムゾンムーンと蒼刃を見てロバートとイーリスは呆然となった。正確に言えばクリムゾンムーンを見てではあるが。

「試合を見たらもっと驚くわよ」

 そんな二人に声が掛けられる。

 何時の間にやって来たのか、ルナが二人の後ろに立っていた。

「ルナ?」

「見るでしょ? 見るわよね? 見たいでしょ?」

 良くわからない三段活用をしながら、ルナは手に持っていたディスクをヒラヒラと振った。かくしてビデオ鑑賞会が始まることとなった。

 

「お、おいこの時のクリムゾンムーンのコンディションは?」

 ビデオ鑑賞が始まり、最初に出た言葉はそれであった。

「愚問ね。いつも最高のコンディションよ。それに……仮にコンディションが悪かったとしても、普通の機体に負けるような性能じゃ無いわよ。MLA、私の作った機体はね」

ゴクリッ

 どちらかが息を呑んだ。いやどちらもかもしれない。

 三人が凝視する画面の中、激しく火花を散らす二機のAC。

 二機の戦闘は激しくも美しい。まるでワルツを踊っているかのようにイーリスには感じられた。

 時として極められた戦闘技術は美しい輝きを放つ。それを知らない人間の瞳には、限りなく優雅に、そして美しく映る。

 美しさの奥に隠された、内包されし破滅の力に気が付かないからだ。

「そろそろね……」

 ルナが言葉を発するのとほぼ同タイミングで画面内の蒼い機体が突然体勢を崩した。蒼刃の膝部が砕けた瞬間である。

「な!?」

 ロバートは驚きの声を漏らした。

 普通に考えて機体がパイロットの操縦に負けて破損するなどと言う事は考えられない。少なくともパイロットがストレスを感じる程度、でないとパーツは販売の許可が下りない。それほどまでにAC用パーツの安全基準は厳しいのだ。

 そのパーツ、中でも一番基準の厳しい脚部が破損したのだ。どのレベルでACを扱えばそのようなことが起こるのか、ロバートには想像もつかなかった。

「まさかとは思ってたけどね……」

 しかし、ロバートとはうって変わって、イーリスは意外と冷静であった。

「あら、気が付いていたの?」

 ルナが悪戯っぽい笑みを浮かべつつイーリスに聞いた。

「膝に目立った外傷が無かったからね。それくらいしか破損の理由が見当たらなかったのよ。実際見た今でも信じられないけどね」

「この子の本気を見たいと思わない?」

「おっ? アルだけじゃなかったんだな」

 ルナをからかうように言ったロバートの言葉を、同じく悪戯っぽい笑みを浮かべたイーリスが続けた。

「この子に惚れたのはね」

 その言葉にルナは微笑を浮かべ――

「さあ、どうかしらね」

 ――軽く答えた。

「超軽量接近戦特化型機体MLA03−Yって所かしらね」

「02のロールアウトもまだなのに気の早いことね」

「あら、02で私がすべき事はもう無いもの。あとはメカニックの仕事でしょう?」

 

ダンッ!

 祐一は射撃の訓練をしていた。

 生身の戦闘。それはレイヴンとは切っても切れないものである。

 機体の制御に応用が利くというのもあるが、機体を失ったレイヴンの生死に関るものであるからだ。

 任務中に機体を降りなければならない場合もあれば、機体を失う事もある。

 そんな時の戦闘を訓練しないわけはない。

「なかなか調子良いな」

 今まで撃っていた的の着弾を確認して、祐一は言った。

 弾は頭部と胸部に着弾している。成績をつけるとしたらAだろう。

「全くダメだ」

 しかし、突然の声がそれを否定した。

「アル?」

 同じく、射撃の訓練に来たのであろうアルであった。

「どの弾もちゃんと頭部と胸部にあたってるじゃないか?」

「ワンマガジン、十五発撃ち切るまでにかかった時間が一分と二十秒弱。時間が掛かり過ぎだ。それだけ時間をかければ素人でも百発百中だ。見てろ」

 そう言ってアルは新しい的を用意する。そして次の瞬間――

ダダダダンッ!ダンッ!ダンッ!

 ――銃を抜き、的に向け、そして発砲。

 その一連の動作が一瞬にして行われた。

 アルが使用した銃はリボルバー。連射に向かない筈の銃でほぼ一瞬にして全弾撃ち切った。

 しかし着弾はバラバラ。かろうじて枠の中に収まっていると言った感じである。

「こう言うことだ。ハンドガンを使用するなんてのはよっぽどの緊急時だ。狙って撃つ必要があるならライフルを、連射がしたいならSMGを使え。ハンドガンの利点は素早く抜けて素早く撃てる事だ」

 喋りつつ的を用意する。

「やってみろ。無論ホルスターに収めた状態からだ」

 ダンッ!ダダダンッ!

 四連射、しかし――

「ぐはっ!?」

 ――的に当ったのは一発だけであった。

「まあ、よう練習だな」

 

 

〜つづく〜


〜後書き〜
第七話完成。
むう、今日は語ることが無い(死

そろそろ長寿なSSになってきたかな、と思ったり(マテ
それはそうと、第二章、十話で収まるんだろうか……(汗
ま、まあ小さい事は気にしないでおこう(マテ

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