ARMORDE CORE 蒼紅の月
スサノオの突入とほぼ同時に格納庫内で一機のACが起動する。
ゲイツの乗るMLA02−Gである。
「機体の名前を付けていなかったな」
MLAを立ち上がらせたゲイツは、ふとそんな事を思いだした。
M・O・O・N・E・R・A・S・E・R
機体名を入力していく。
「ふっ」
MLA02−G MoonEraser
それがMAL02の機体名となった。
第二十話 崩壊の刻
「無事か?」
それはとっさの判断だった。
投げこまれた手りゅう弾に、祐一は近くにあった死体を被せた。
もともと手りゅう弾とは大きな爆発力は持っていない。爆発した際の破片が殺傷能力を有するのである。
ある意味銃弾と言っても問題はないだろう。火薬を用い弾を飛ばすか、破片を飛ばすかの違いであるからだ。
しかし全方位、360°に渡り発射される弾丸であるが。
したがって破片が飛び散るのを防ぐ事が出来れば、いくら近距離であっても傷を負う事はない。
「ああ。そっちは?」
「無傷だ。それにしてもアサルトライフルに手りゅう弾とは」
落ちていたアサルトライフルを拾い、状態を確認しながらアルは呟く。
「格納庫までか……なかなかハードだな」
アサルトライフルの状態を確認したアルは、次に死体のホルスターからハンドガンを、マガジンポーチからマガジンをとりだす。
「ルナ」
そしてそのハンドガンをルナへ放った。
ロバートとイーリスは同じACのコックピット内にいた。
二人の部屋は格納庫に近く、進入を察知して逸早く格納庫に移動できたのだ。
ロバートはジェネレーターには火を入れず、内部バッテリーのみでACのカメラを作動させ、外部の様子を観察する。
ほとんどの場所でちらほらと黒いがげが動いていた。
格納庫内は全身を黒で覆われた兵士にほぼ占拠されていると言って良い。
この手際、準備の良さは、かなり場数を踏んだ玄人。
アルや祐一、そしてゲイツならともかく、ロバートとイーリスにこの人数を相手に戦う術は無かった。
「ヤバイな〜」
しかしそんな状況にあって、ロバートの声に、表情に悲壮感は無かった。同じくイーリスの表情にもだ。
「はてさて、何時来るかな」
「すぐに来るわよ。それより、すぐに暴れられるようになってるんでしょうね」
「もちろんだ」
この状況から見て外部にAC隊が控えている事は用意に想像できる。
ロバートの機体――ナイトメア――にはステルスが装備されている。逃げようと思えば簡単に逃げきれる。
しかし、この場を動かずコックピットで息を潜めているのは、祐一達がACに容易に搭乗できるように格納庫内で人暴れするためだ。
仲間への信頼が二人を格納庫へと止めていた。
起動させたムーンイレイザーを格納庫へ向ける。
祐一、アル、ゲイツ、ロバートの機体は違う格納庫――戦闘用多目的デッキを有する一番格納庫――にあるためだ。
先ほどまで調整していたムーンイレイザーは調整用の四番格納庫に収められていたからだ。
この格納庫間の移動時間が後々の因縁を作る事となる。
ガァァァァァァァ!
「ここを越えれば格納庫だと言うのに!!」
激しい銃撃にアルは舌打ちする。
ガンッガンッ!!
隣で祐一がハンドガンを連射する。しかしほとんど効果はない。
ガァァ!
アルはバリケードから大きく飛びだし一瞬だけアサルトライフルのトリガーを引き絞った。
手動によるバースト射撃。弾切れを防ぐために無駄な連射を控えるための技術だ。
そしてその正確な連射は敵に直撃する。が――
ガァァガキンッ!!
――次の瞬間、アサルトライフルがボルトオープンする。
「ちぃ!」
アルは迷うことなく弾の切れたアサルトライフルを投げ捨て、愛用のリボルバーを抜く。
ダァンッ!
「あと3人!」
ガガンッ!!
アルが敵をし止めるのとほぼ同時に、祐一がアルを狙おうとしていた敵にダブルタップを決めた。
「「あと2人!」」
二人の声が重なる。その瞬間――
スガァァァァァン!!
――格納庫で爆発が起こった。
「なっ!?」
コックピット内のロバートとイーリスは我が目を疑った。
格納庫内に現われたMLA02が突然祐一の機体――蒼刃――を撃ったのだ。
弾の直撃と一瞬遅れて爆発、炎上する機体。
それには何の感慨を抱く様子もなく、MLA02は次の機体――クリムゾンムーン――に向き直る。
ゆっくりと上昇する砲身。
「くそっ!!」
ロバートは反射的に動いた。ナイトメアでMLA02に体当たりをくらわせる。
MLA02が体勢を立て直す隙にジェネレーターに火を入れ、マシンガンの照準を合わせていく。
「くっ」
とっさにゲイツは機体を格納庫外へ退避させる。
ガラララララララッ!!
マシンガンより吐き出された弾丸は虚しく空を切った。
「くそっ!」
舌うちし、ロバートはMLA02を追う。
「こちらゲイツ。蒼刃の破壊には成功、クリムゾンムーンの破壊には失敗した。慣らしが十分じゃない機体だ。そろそろキツイ。後から追ってきている機体を頼む」
『こちら隼人。了解した。上首尾だな。ゆっくりと休んでくれ、後は俺がやる』
「なっ!?」
爆発の煙が晴れる。そんななか祐一の視線は炎上する蒼刃を捉えた。
呆然と立ち尽くす祐一。
無理も無い事だが、しかしそれは戦場では命取りとなる。
「祐一!!」
アルの怒号でハッと我を取り戻す。次の瞬間、祐一へ向け銃弾が放たれた。
ガァァァァ!!
祐一はとっさに身を捻り、致命傷は避けた。が、右肩に一発食らった。
「痛ぅ」
「傷は!?」
ルナが祐一に傷の具合をたずねる。
「右肩を掠めただけだ」
短く端的に、しかし嘘を祐一は言う。
それを信じたわけではないが、この状況で傷の心配など出来ようはずもない。
致命傷か、そうでないか。無処置で死に至るほどか、至らずに済むかその程度の確認に過ぎない。
幸い祐一は後者であった。
「足は動くか?」
「あ、ああ?」
突然のアルの問いかけに祐一はしどろもどろ答える。
「アレが見えるな?」
アルが指差した先には扉があった。
「あそこまでたどり着けるな」
ほぼ断定口調であるは言う。しかしそこまで行くには敵の射線にほぼ直角に移動しなければならない。
それは容易なことではない。
「ああ」
今度は力強く祐一は答えた。
「俺が連射して敵が黙った瞬間に駆け抜けろ」
「それじゃアル達は!?」
「俺たちはクリムゾンムーンで逃げる」
「しか――
ガァァァァァァ!!
アサルトライフルの斉射に祐一は言葉の途中で口をつぐむ。
ガンガンッ
バリケードに隠れながらハンドガンを連射する。
「早く! 早く行け!! 祐一!!!」
アルがハンドガンを連射しながら祐一を怒鳴る。
「でっでも」
「デモもストライキもない! さっさと逃げろ!!」
「祐君、私たちは後から行くわ。だからあなたは先に逃げて」
ルナは優しく諭すように祐一に言う。それを聞いた祐一は意を決した。
「わかりました。でも絶対ですよ」
「祐君」
そう言って駆け出そうとした祐一にルナは声をかけ、何かを投げてよこした。
「うわっ!?……ACの機動キー?」
「7番格納庫にあるわ。知ってのとおり未完成だけど性能はぴか一よ」
思わず呟いた祐一にルナがウインクしながら説明した。
MLA03−Yの始動キー。最初で最後のルナからの贈り物であった。
「ありがたく使わせてもらいます」
ルナに礼を述べ、祐一は駆け出した。
「ハァ……ハァ……」
タラップを上り、コックピットに身体をねじ込む。
いつもどおりの手順、いつもどおりの操作。
機体に火が入っていく。
「後は……」
傷の痛みにうまく操作をしきれない。
そしてそれ以上にこの機体を今の状態では扱えない可能性が高い。
そんな身体を気力で突き動かし、祐一は機体を制御する。
「こいつの機動性なら……外に居るAC部隊も抜ける……そうだろ、ルナ」
ジェネレーター出力がぐんぐんと上昇していく。
そして臨界も迎えた瞬間――
「MLA03−Y……行くぜ!!」
――祐一はスロットルを全開まで押し込んだ。
急激な加速。一瞬にして500km/hを越える。
スピードを落とさずに格納庫を抜ける。そして出口が見えた瞬間OBを起動。
一瞬遅れて――出口から外へ出た瞬間――OBが発動、爆発な推力が機体を加速させる。
外で待機していたスサノオのAC隊はそれには反応する事が出来なかった。
圧倒的なスピードでスサノオのAC隊の間を駆けぬける。
ものの2秒かからずに、MLA03−Yはスサノオ隊を振りきった。
〜つづく〜