ARMORDE CORE 蒼紅の月

 

「……久しいな、祐一。こうやって生身で会うのは何年振りか……」

 そう言ってアルは微笑みを浮かべる。中身の無い――いや哀しみを押し殺すあまり、感情を消えてしまった笑みを……

「アル……ルナ……は?」

 問いかける祐一の表情は硬い。

 それは今一番の疑問、一番知りたいこと。

 そしてそれと同時に、一番知りたくない事でもあったからだ。

「…………………………死んだよ」

 その答えに祐一は凄まじい衝撃を受けた。

 予期していなかったと言えば嘘になる。

 意味も無くアルがテロ行為に走るはずが無いのは祐一自身が一番理解していた。

 なら、アルは何故そんな事をするのか?

 ふとした疑問が湧く。そしてその答えはルナを死と結び付けることで簡単に導く事が出来た。

 理性では理解していたのかもしれない……だが、感情がそれを否定してしまったのだ。

 

 

第四話 想いを継ぎし者

 

 

 香里が去った後、名雪は絞りだすように呟く。

「……馬鹿……だよね」

 頬を伝う涙をご魔化すように笑みを浮かべた。

 寂しくも哀しい微笑みを……

「わかってたことなのに……覚悟してた事なのに……」

「後……て……の?」

 名雪の背後から声がかかった。

「……お母さん?」

「名雪……貴女は自分の行動に後悔してる?」

 秋子の質問に、名雪は涙で濡らした顔を振る。

「してない……してないよ。だって、だって祐一も香里も私の大切な人だもん」

 そんな……そんな娘を母は優しく抱きしめた。

 

 

「……アル、もう止めよう。こんな事をしたって「ルナは喜ばない?」」

 祐一の言葉を遮るようにアルが口を開く。

「確かに……ルナは復讐なんて望まないだろう。そんな事はわかってる。そしてお前は次にこう言うんだろう? 『なら、何でこんな事をする?』 決まっている、これは俺の復讐だ。ルナの復讐じゃない、ルナを奪われた俺の復讐だ」

 憎悪。それが再会した祐一にアルの表す初めての感情であった。

「祐一……ACを降りろ」

 一転してアルは優しく、諭すように祐一に語りかける。

「俺はお前を殺したくない」

「アル……」

 祐一も当事者だ。アルの愛する人を失った……いや、奪われた悲しみがどれほどのものか痛いほど理解できる。

 だが、だからと言ってアルの凶行を見逃すわけにはいかない。

 止めなくてはいけないと思うのだが思いは空回りし、思考は霧散する。

「…………」

 結局祐一にはうまい言葉が思いつかなかった。

 そんな祐一に、仕方なくと言った感じにアルは顔を左右に振り口を開く。

「これが最終勧告だ」

 言葉と共に祐一に向けられるアルの右腕。そこには黒光する大型の自動拳銃が握られていた。

 祐一とアルとの距離は10m。射撃の名手でなくとも――銃を突き付けた状態でなら――必中の距離。

バァンッ!

「っ!?」

 発射された弾丸が右肩を掠める。

「ACを降りろ。そして二度と乗るんじゃない」

 答え次第で――次は当てる。

 突き付けられた物言わぬ銃口がそれを物語っていた。

 

 

ピーッピーッ

 警報が鳴り、エネルギー残量がレッドゾーンに入ったことを知らせる。

「もうっ」

 仕方なく香里はOBを解除する。先ほどからOB起動とエネルギー残量の低下によるOBカットの繰り返し。

 チャージ状態になっては元も子。それは理解しているが香里の焦燥は募るばかりだ。

 ジェネレーターの回復を待ち、すぐさまOBを起動する――

ビーッビーッ

 ――が、更に違う警報がコックピットに響く。

「機体温度が危険域」

 連続でOBを起動しつづけて来たのだ。当然と言えば当然の結果だろう。むしろ良くここまで耐えたものだ。

「後……直線距離で8キロ。後少し、後少しだけもって」

 

 

「もう一度言う、ACを降りろ。そして二度と乗るんじゃない」

 そんなアルの言葉に、祐一は静かに口を開いた。

「昔の俺なら……多分ACを降りるか、アルの手にかかって死ぬ事を選んだろうな……」

 そこで言葉を切り、祐一は瞳を閉じた。

 色々な想いが脳裏をかけ廻る。

 

――過去の記憶――

 

「断る。ACを降りる気はない」

 

――現在の願い――

 

「大切なモノを……今度こそ護ってみせる。二度と失いはしない」

 

――そして未来への希望――

 静かに開らかれた祐一の瞳には、何者にも屈さぬ力強い意志の光がともっていた。

 

 

「……良い眼だ。昔のお前とちっとも変わってない」

 銃口を下げ、ポツリとアルが洩らしす。

「そうだな、昔からお前が一番Moonの……ルナの理想に近かった。いや、むしろ理想その物だった。そしてあんな事があってもそれは変わっていない」

「俺が変わらずにすんだのは皆が居たからさ。アル達が……そして香里達が居るから」

「機体に乗れ……AC乗りはAC乗りらしく決着を付けよう。俺はもう戻れない。ルナの理想は……Moonはどんな理由があろうともテロを、人々を傷つける行為を許容しない。そして祐一……お前こそがMoonだ」

 一転してアルの口調が厳しいものになる。

 それが意味するのは決別か……はたまた……

 

 

 アルは静かにシートに身体を沈めた。

 何度もこなした動作。何も考えずとも身体が自然と動く。

「ルナ……」

 ゆっくりと機体のロックを解除しつつ、アルが静かに口を開いた。

「Moonは――君の想いは祐一が継いでいたよ」

『戦闘システム起動』

「これで……俺は心おきなく悪になれる」

 

 

 アルの実力は熟知している。

 自分の能力そして機体性能。勝てる見こみは低い。いや、無いと言っても過言ではないだろう。

 いくら戦闘に絶対は無いと言っても、いかんともしがいたい機体の性能差はそう簡単に埋まるものではない。

 勝つ方法を考えれば考えるほど、負の思考が祐一を支配する。

「俺が……俺がアルを止めずに誰が止める!! 」

 そんな思考を振り払うように、祐一はスロットルをきつく握りしめた。

 

 

〜つづく〜


〜後書き〜
よ〜し、次回から戦闘や(ぉ
香里がどう絡んで来るかまだ決ってないけど(駄目やん
多分次はメイドの方がアップされるかな?(ぉ
題名が非常に不味かった(てか内容も)ので途中で破棄しなかったら同時にアップできただろうけど(苦笑
まあ、頑張っていきますか。

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