「……きて…………起きて……くん……相沢くん」

 声と共に視界が明らむ。しかし身体は正直、睡眠を欲している。

 恐らくあゆか真琴だろう。そう思い俺は布団を引き上げ無視することに決めた。

「ねえ、相沢くん。起きて」

 あゆか真琴か知らないが、いつの間に俺のことを相沢くんと呼ぶようになったんだ? 

 まあ、今は眠いし、用事なら後にしてもらおう。

「あゆ、俺は眠いから用事なら後にしてくれ」

「あ、あたしはあゆちゃんじゃないわよ」

 どうやらあゆではなかったようだ。と言う事は真琴だな。

「すまん、真琴。後で肉まん買ってやるから今は寝かせてくれ」

「真琴ちゃんでもないわ」

 うぐぅ? しかし名雪な訳は無いしな。

 ぐはっ! くだらんやり取りで目が覚めてしまった。

 仕方ない、素直に起きるか……

「ん〜おはよう」

 と俺が起きるとそこには――

 

かおりんメイド物語・朝食編

 

 ――メイドさんが居た……

「お、おはよう、相沢くん」

 どちら様? そのウェーブのかかったロングヘアー、可愛いと言うより美しい顔立ち、そしてそのプロポーション……

「え〜と、香里さん?」

 エプロンドレスを着た香里がたっていた。

 恥ずかしげにうつむいて、身体の正面で手を揃えて立っている。まさにメイドさんと言った立ち方だ。

 激しく萌え……じゃなくて、どうやら俺はまだ夢の中に居るらしい。

「え〜と、夢の世界と言う事は好きなことをしていんだっけか?」

 いや待て、そうじゃないだろう俺? ほかに考える事があるだろう?

「朝食の準備出来てるから、着替えて降りてきてね」

 俺の思考を遮るようにして香里は一礼し部屋を後にした。

 ひとまず自分の頬をつねってみる。すこぶる付きで痛い。

「マジか!?」

 夢の中ではないらしい。いやしかし、香里がメイドさんとは。

 …

 ……

 ………

 ティッシュ、ティッシュは何処だ!?

「ひ、ひとまずメシを食いに行こう」

 自分に言い聞かせるように思わず声に出してしまった。

 俺もまだ若いって事だな……

 

「すぐにお茶を用意するから、相沢くんは座ってて」

 一階に降りるとすぐに香里に声をかけられる。

 まあその声に従い俺は椅子に座る。

「紅茶と緑茶、どっちがいい?」

「じゃ、じゃあ緑茶を」

 俺もかなり動揺しているらしい。まあ、一つ落ち着こう。冷静にならないと問題は解決しないものだ。

「どうぞ」

 ひとまず香里の居れてくれたお茶でも飲んで気を落ち着かそう。

「さ、サンキュ」

「当然の事だから」

 そう言って微笑んだ香里の笑顔は百人に聞いたら二百人が可愛いと答えるものであった。

「相沢くん、顔が真っ赤よ? もしかして熱でも!?」

 いや、そうでなくて香里が可愛かったからなわけなんだが。

「いや、大丈夫。まったくそんな事は無いぞ」

 面と向かって言えるわけが無かった。

「それで聞きたいんだけど」

「なに?」

 その首をかしげる動作は!?

 ごめんなさい、あまりのダメージに僕狼さんになってしまいそうです。

 今回は何とか精神力で押え込んだが……

「何ゆえおまんはエプロンドレスか?」

 口調が変になってしまった。

 しかし香里は自分を見下ろし、事もなく答えた。

「メイドがエプロンドレスを着るのは当然だと思うけど?」

 しかもおもいっきり質問の意図を察してくれてなかった。

「いや、そーでなくて、なんで香里がメイドさんをやっているのかって事だ」

「秋子さんから今日から一週間、親戚の家に行くから祐一の身の回りの世話をして欲しいって頼まれたのよ」

 そうかそうか。なるほど、秋子さんの差し金か……てっ、だから何ゆえメイドかーっ!?

「いや、しかし何故にメイド?」

「身の回りの「世話と言ったらメイドですから」……だそうよ」

 なんで秋子さんの声がするんすかーっ!?

「知りたいですか?」

「い、いえ、遠慮します」

 なんて言うか疑問を持つ事の愚かしさを改めて知った気がした。

 

 取りあえず秋子さんの声は気のせいと言う事にして朝食開始。

「うん、美味いぞ」

 香里の作った朝食は文句なく美味かった。

 まあ、メイド服なのに朝食は和食と言う事に疑問を持ったりもしないではないが、俺は和食好きだからOKだ。

 ご飯に味噌汁、アジの開き。どれも秋子さん並みに美味かった。

「うむ、合格」

「何に合格よ」

 香里が突っ込んでくるが、その表情は誉められてうれしそうであった。

 う〜む、甘痒い。

 感謝、感謝です秋子さん。

「ごちそうさん」

 うむ、余は満足じゃ。

「おそまつさまでした」

「どれも美味かったぞ」

うん、俺の嫁にしたいくらいだ。

「あ、あ、あいわざくん!?」

「どうしたんだ?」

 何故に急に慌てる? いや、なかなか慌てる姿もラブだぞ。

「よ、嫁って」

「あ〜、もしかして?」

コクコク

 真っ赤な顔して肯いてらっしゃるぅぅぅぅぅぅぅ!?

 ぐはっ! ハズイ、途方もなくハズイ。

「あ、あたし洗い物しなくちゃ」

 真っ赤な顔して台所に消える香里。冗談抜きに嫁にしたいと思ったのは秘密だ。

 

 

〜つづく〜


〜後書き〜
蒼紅の月の四話を楽しみにしてくれてた方ごめんなさい。
明日に四話はアップします。
急に香里メイド物を書きたくなったんです(ぉぉ
そんなわけで新連載。
と言っても不定期で、恐らく三、四話程度で終わるでしょうけど(笑
ま、こんな感じだと思いますが、応援よろしくお願いします。

戻る