「は?」

「買い物に付きあってもらえないかしら?」

「いや、復唱しろという意味うじゃないんだが……」

「嫌なの?」

 ぐはっ! 潤んだ瞳、不安げな表情(感涙)

 狙ってそういう表情しないでくれ。

「むしろこちらからお願いしよう!」

 男はそういう表情に弱いんだ。そして俺もその男なんだ……(苦笑)

 

 

かおりんメイド物語・お買い物へ行こう編

 

 

 なにやらやたら人目を引いてるな……

 当然と言えば当然な格好だからな(苦笑)

「なあ、香里……何でその格好なんだ?」

「メイドと言ったらエプロンドレスよ」

 そのやり取りは前回やったぁぁぁぁぁぁぁ!

 何ゆえその格好で買い物に行くか!?

 問題はここ!!

「あたしは今メイドだからよ」

「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! そうじゃないだろ!?」

「この格好は嫌い?」

「大好きだ……ってそうじゃなくて、商店街でその格好は」

「問題無しよ」

 そんなキッパリと……

「それよりほら、まずは八百屋からよ」

 うう、問題は解決してな〜い(涙)

 

 

 商店街をメイドさんが闊歩する。

 こんな光景を誰が予想しただろうか?

 恐らく予想できた人間は居まい。

 かく言う俺もそんな予想など出来ようはずも無く――

「ほら、行くわよ!」

 ――まさかそのメイドさんに急かされようとは思いもしなかったのである。

「いいかげん現実逃避は止めなさい」

 うぅ、ご主人様に人権は無いようだ(涙)

「がんばれ、俺」

「ほら、自分を励ましてないで行くわよ……あ、おじさん。ジャガイモと人参ください」

「お〜懐かしいね〜」

 懐かしい? 懐かしいとおっしゃいましたか?

「それ秋子ちゃんのだろ? 名雪ちゃんが着ると思ってたんだけどね〜まさか香里ちゃんとはね〜」

 あ、秋子さん……マジですか?

「ご主人様は祐一君かい? うらやましいね〜」

 ニヤニヤとしながら俺をつっつく八百屋の親父。

 テレよりも先に微妙に殺意が湧いた気がする……

「はっはっはっ、若いって良いね〜」

 その言葉に振り向いた先には香里がモジモジと赤くなって立っていた。

 は、激しく萌え!?

「さて、ジャガイモと人参だね。ちょっと待ってな」

 ゴソゴソとジャガイモと人参を袋に入れる。

「はい、百八十円ね」

「おい、香里?」

 差し出された袋に気付かずに赤面したままの香里を急かす。

「きゃっ!? なに?」

 う〜む、慌てる姿も激しく萌え〜

「百八十円ね」

「え、あっはい。百八十円」

「はい、丁度ね」

 お金の受け渡しも済み、次の店に向かう。

 その時八百屋の親父が俺を呼びとめた。

オマケしておいたよ(ニヤソ)」

 小声で告げる。

 その時の親父さんの笑みがすさまじくアレだった……

 

 

「残りは?」

 荷物が増え、抱えるのが大変になってきた俺は香里に残りがどの位あるのか聞いた。

 しかし、まだあるって言われたらどうしようかと思う。

 いや、マジで。

 俺の言葉に、香里は買い物リストを見る。

「後はお肉屋さんだけね。それでお終い」

 後は肉屋だけか。

 ふう、なんとか抱えられそうだな(苦笑)

「無理しないでも、あたしが持つのに」

 うぅ、もしかして言葉に出てた?

「ええ、いつもの如くね」

「ま、まあそれは置いておくとして。香里に持たせられるわけだろう」

 男として、女性に荷物を持たせるなどと言う事は出来ん。

 考え方が古いと言われようが、それが俺の信念だ。

「頑固ね〜」

「何とでも言え」

でも、そんなところも大好きよ

「え、何だって?」

「何でもない。後はお肉屋さんだけだし、ちょっと寄って行かない?」

 う〜む、何かうまく話をはぐらかされた気もするが……まあ、疲れてきたし丁度言いか。

「ん、香里が良いなら良いんじゃないか?」

「それじゃ決まりね」

 

 

「いらしゃいま」

 言葉の途中にポトリとくわえていたタバコが落ちた。

 いや、ごく自然の反応なんだけど何かすごく新鮮に感じたりする。

「ゆ、祐一君!?」

 店長……俺に問わないでくれ。

 俺が首を横に振ると諦めたのか店長は香里に向き直る。

 じ〜と香里を注視する。

 接客の基本、脚をしげしげと注視しないなんてのは頭の隅にも無いようだ。

「え〜と、香里ちゃん?」

「店長……接客の基本、忘れてますよ」

 ため息ながらに香里がその事を告げる。

 う〜む、メイドさんに説教される店長、なかなかシュールだ(苦笑)

「あっああ、ごめんごめん。それじゃ、こっちへどうぞ」

 焦るなと言う方が無理なのだが、今までの商店街の反応を思いだすと、すこぶる間抜けな反応に思えるから不思議だ。

 いや、俺でも同じ反応するだろうけど。

「それで、何にする?」

「俺はコーヒーを」

「あたしは紅茶で」

「イチゴサンデーは良いのかい?」

「「それは名雪です」」

 香里と俺のセリフは綺麗に被った。

「さすがはメイドとご主人様。以心伝心だな」

「「違います!」」

 また被った。思わず顔を見合わせる香里と俺。

「はっはっはっ。それじゃコーヒーと紅茶ね。すぐに用意してくるよ」

 そんな香里と俺を笑いながら店長は奥へ下がっていった。

 うぐぅ、何でこの街の人は皆こうなんだろう……

 

 

「なるほど、それで香里ちゃんはメイドの格好をしてるんだね」

 納得できるんか!?

 少なくとも俺は出来ない。

 いや、まあ秋子さんが絡んだ時点で諦めるんだが。

「今日は名雪ちゃん達が居ないから変だと思ったんだ。そんな理由があったなんてね〜」

 俺の心の内など全く関係無く店長は続けた。

「香里ちゃん!」

 急に店長が真面目な顔になる。いったい何だ?

「今晩は気を付けなよ」

「ハァ?」

「男は狼だよ。特に女性がそういう格好をしてるとね」

「ブゥーーーーッ!!」

「何だ、祐一君。汚いじゃないか?」

「だ、誰のせいですか!? げほっげほっ」

 真面目な顔して言う事がそれか!?

「しかしだ、話の展開からすると今晩香里ちゃんは祐一くんの家に泊まることになるだろう?」

 そう言う事になるのか?

 ……なりそう(苦笑)

「そう、その状況を一言で表すとしたら……」

 そこで言葉を切る。

 勿体ぶらずに言ってくれ。

 香里も興味津々と言った感じだ。

新婚初夜!!!

ゴッ!!×2

「目上の人物を殴るのは良くないと思わないか?」

「「人物によります!!」」

 ったく、この店長にも困ったもんだ。

 

 

「それじゃ、ごちそう様でした」

「ごちそう様でした」

「はい、ありがとう。また来てね」

 店長に挨拶して百花屋を後にする。

「香里ちゃん、毒牙に気をつけてね〜」

 それだけ言って足早に店内に消える。

 あのくそ店長……今度あったら絶対絞める!

「お、お肉買って早く帰りましょう」

「あ、ああ」

 香里真っ赤だな。多分俺もだろうけど。

「それじゃ、行こう」

 そう言って俺は荷物を抱えなおした。

 

 

 結局、肉屋でも俺と香里はからかわれた。

 正確に言え商店街であった知りあい全員かもしれない。

 家に付くまで香里は赤面しつづけてたし。

 ああ、もうこの街の人間は……

「あ、そういや八百屋でもらったオマケって何だったんだ?」

「ちょっと待って」

 俺の言葉に香里がガサガサと袋を漁る。

 出てきたものは――

「……(赤面)」

「……(赤面)」

 ――ヤマノイモ科の多年性つる草の根っこ、通称・山芋だった。

 

 

〜つづく〜


〜後書き〜
第二回〜
実は流行性感冒編だったんだけどお蔵入り(ぉぉ
正確には第六回くらいに持ってくる事に変更。
いつになる事やら(死
まあ、次は蒼紅の月だ。
第二章のラスト、気合入れていってみますか。

戻る