「なぁ、天野、デートを―――」
「嫌です」
この男……相沢祐一はやはり唐突な男だった。


デートをしよう!



春の穏やかな風が吹く「ものみの丘」と呼ばれる場所。
一年前、一人の少女が消えた場所に今、二人の男女の姿があった。
一人は、どこかその面立ちに幼さを残し、「やんちゃ坊主」をそのまま大きくさせたような印象を受ける少年。
もう一人は小柄な体にもの静かな雰囲気、若草の上に座る姿勢もゆったりとしていながら、きっちりとしている所に生真面目な性格がうかがわれる少女。

二人とも私服なのはどうやら今日は休日であるようだった。
少年はラフな格好であったが、それでも彼にはそれがよく似合っていた。
少女は質素な落ち着いた色の薄手のセーターにスカート。華やかな印象こそないものの物静かな彼女の雰囲気にはよく似合っていた。

少年の名を相沢祐一、少女の名を天野美汐といった。

二人して並んで座って話をしているその様子は他人から見れば恋人同士のそれだったが、どうやら当人たちはそういうものではないらしい。

「……キャラが変わってないか?天野」
「知りません」
脱力した祐一は明らかに間違った所にツッコミを入れていた。
対して、平然と切り返す美汐の声。
「むっ、違う。天野、お前俺が言い終わる前に拒否をしなかったか?」
一応、気付く辺り、相沢祐一はバカではないらしい。
「気のせいですよ」
全く慌てもせず、美汐は祐一に答えた。
どうやら祐一の冗談への対処は美汐には手馴れているらしい。

ちなみに今の彼女に勝つには祐一は彼の同級生の美坂香里嬢に口で勝つことと同意である。長年……とは言わないまでもかなりの時間を祐一と過ごしている美汐はもうそのレベルにまで祐一の扱いを心得る存在になっていた。

ちなみにこの相沢祐一。
そんなことは実は百も承知だったりする。
ただ、反応が面白いから、と、この天野美汐を始め、従姉妹の水瀬名雪、幼馴染の月宮あゆにも同様のことをしている。
(ちなみにこの二人は未だに祐一のカモになっているが)

ただ、事情を知るもののの美汐から見ればそれは人に接しようとしている祐一の「想い」の表れであった。
多少屈折したかたちで出ているものの、少なくとも、一年前は人との交わりを全て絶とうとするほど心を砕いていた経験が祐一にあることを美汐はよく知っていた。
もちろん、その理由も、だが。

その時のことを考えると、祐一もよく笑い日常を楽しむようになった。
傍で見ていた美汐にはそれは素直に嬉しいことだった。

だが―――それとこれとは別らしい。

「大体いきなりなんですか、デートなんて」
「いや、したいから言ったのだが……」
「あなたは『したい』と思ったらすぐに女性に声をかけるのですか?」
呆れたように美汐は言うが、この時の目は恐かった、と、後の祐一は語る。

「いや、そんなことはない。俺は天野だから誘ったんだ」
「だからなんで私なんです?たくさんいらっしゃるでしょ、誘う方は」
「誰のことだ?」
本気で首をかしげる祐一。
ちなみにこの男、学校でも(腹立たしいことだが)かなりモテル部類だったりする。
さらに一時期以降、時々影のある表情と、憂いを帯びたその顔がさらに人気の拍車をかけている事実がある。
だが、それでも彼に言い寄る女子が少ないのはには訳がある。

彼の周りにいる女子の方々が郡を抜いた美少女ばかりなのである。

同居する従姉妹、幼馴染の少女、クラスメートの才女とその妹、一年上の有名人の先輩二人と、数が多い。
ちなみに天野美汐その人もその一人に数えられている少女である。
本人は断固否定するだろうが、美汐という少女もその雰囲気的に目立たないだけで、その容貌も優れているし、その雰囲気も「神秘的」と評されていたりするのだった。




「たとえば、名雪さん」

「あいつは、只の従姉妹。大体、よく一緒に買い物とかもいくし……」

「あゆさん」

「あれの場合はお守りになるだけだ……」

「香里先輩」

「俺に虐げられろと……?」

「栞さん」

「あれはアイス代で食いつぶされる……」

「倉田先輩と川澄先輩」

「あれは二人同時の相手はキツイぞ……」

「あきこさ―――」

「やめてくれ……俺の器じゃない……」




「でもその言う割にはよく一緒の所見かけますけど……みなさんと」
底冷えした声で美汐は祐一に告げた。
後日、祐一は語る。
『あれはなぜか死刑判決のようだった』

「仲いいのはいいことでは?だから私など誘わないでください」
「違う!俺は軽い気持ちじゃ―――」

「真琴のことは……どうするんですか?」

その美汐の一言に祐一は止まらざる終えなかった。
それは何より、今までの冷ややかなだけの言葉とは全く違う質の、声。

真剣な、そしてどこか物悲しさを称えた、美汐の声。

「あいつは……あいつは、家族だよ」
数ヶ月をもって、出した祐一の答え。
最初は男と女としての「好き」を考えはしていた。
だけど、祐一の中では、やはりその答えがしっくりきていたのだった。

そして―――祐一が、他の女性になびかない訳。

実はそれは―――既に自分が想いを向けている女性が判っていたからだった。




「美汐のことが、俺は好きなんだよ!!」




さっきまでの会話の流れを無視した、唐突な告白。
やはり、祐一はどこまでも、祐一だった。

「…………………………………」

美汐は顔を下に向け、じっと俯いている。
髪に隠されたその表情からは、何もわからない。

対して、祐一は、やや赤面しつつも、心のうちを言えた満足感が伺えた。
もちろん、その表情はこれから起きるであろう展開に緊張で引きつってはいたが。

無限にも思える沈黙。



















「……………………合格ですよ♪」
「へっ?」


いきなりの笑顔の美汐の言葉に、突っ込むこともまた意味も問いただすことも思いつかないまま祐一は素で驚いていた。

「よかった。やっと言ってくれましたね」
「って……」
「これで、私たちも晴れて恋人同士ですね♪」
「おい……」
「待ったかいがありました」
「ちょ……」
「それでは、宣言を皆に伝えませんと♪」
「まてーーーーーーーーーーーー!!!!!」

祐一は丘中に響く大声で突っ走る美汐を止めた。

「なんです?相沢さん?」
「なんだよ?どういうことだよ?」
「えっ、ここはやはり他の方々を牽制の意味合いも……」
「違う!!!じゃなくて―――」
「あっ、まだ触れ合うのはなしですよ。求めてくれるのは嬉しいんですけど、やはりこういうことはちゃんと手段をふんでから……」
「それは考えるが……じゃなくて、美汐!どういうことだよ、合格とかなんとかは!」

どうしても美汐のペースにはまる祐一であった。
まぁ、彼女に彼がかなおうとする時点で無駄だとは思うが。

その祐一の言葉に美汐は微笑んだ。
それは時に微笑むときの、微笑ではなく、満面の笑顔。
初めて、祐一の見る、美汐の、本当の笑顔。

「待ってたんですよ!相沢さんの告白を!」
「な、なに?じゃあ、俺の気持ちも気付いて―――」
「わかりますよ。相沢さんの気持ちぐらい。どれだけそばにいたと思うんです?」

眩しいほどの笑顔で、美汐はその言葉を告げた。
何より、いつも傍にいた彼女の言葉。




「これから、末永くお付き合い願いますね。祐一さん!!!」




月下夢幻!三万HITおめでとうございます。
今回初の美汐SSです。いかがだったでしょうか?
ちょっと最後は壊れましたが(^^ゞ
今後も頑張ってください!

By.HIIRO Stdio Sky

HIIROさんに僕(HIRO)のリクエストした美汐SSを三万ヒット記念に頂きました。
どうも有り難うございます。
小悪魔的(策略家?)な美汐たん萌え(マテ
う〜む、一家に一人欲しい(だからマテ
想像した以上のSSを頂き、嬉しい限りです。
今後もよろしくお願いしますね〜(ォィ