捨て猫日記

by 真那矢





 つめたく、苦しかったあの長い冬が過ぎて早一年。

 あの激動の冬を体験した皆が何とか、普通の平凡な暮らしを甘受する事になった。

 それはとても幸せで、素敵な日々だ。

 俺はというと、目の前の危機が通り過ぎて、過去の過ちも何とか清算することができた。

 そして、自分のこと、未来の事を考えられるようになった。



 俺は必死の思いで勉強して、何とか北の町の四年制の大学に合格する事ができた。

 んで、大学にも合格したので、これを機に水瀬家を出ることにした。


 何時までも、役に立たない無駄飯ぐらいの居候がいても秋子さんが迷惑するだろうし、

 俺も一度、一人暮らしをしてみたかったし、

 何より、女の人が四人に男が俺一人じゃ、何かとストレスがたまりそうだったので、

 親にわけを話して、水瀬家を出た。

 皆、ちょっと寂しそうだったが、快く俺を見送ってくれた。

「うぐっ、祐一くん! ボクを見捨てるのぉ」
「うにゅっ、そういうことを言う祐一にはイチゴサンデー!」
「あう〜、あなただけは許さないんだからっ!!」
「あらあら、甘くないジャム食べます?」

「うぐぅぅぅぅ!!!」「だぉ!? だぉ、だぉ、だぉぉぉ……」「あぅぅぅぅぅぅ〜!」
「あらあら」


 俺には何も聞こえないし、何もみていない。
 だから、絶叫も聞いてないし、オレンジ色のジャムも見ていない。
 不気味に、ヒクヒクと痙攣する三人の姿態(死体にあらず)なんて見てはいないんだっ!
 
 あれの所為で家を出たんじゃないかって?
 ……………………ノーコメントだ。



 という訳で、快く見送ってくれたのだ。




 んで、新しい家に向う途中、奇妙な物を見つけた。
 ダンボール箱。
 愛媛のみかんと印刷された正真正銘のダンボール箱。
 十人中十人が間違いなく、「これは段ボール箱だ」と答えるような由緒正しいダンボール箱。
 紛れもなく普通のダンボール箱。


 そのダンボール箱には「拾ってください」と奇麗な字で書かれていた。
 中を確かめてみると、捨て猫がいた。
 しかも人間に甘えるのが恥かしいのか、本当に恥かしげに鳴いていた。
「ミィィ、ミィィ」
 って感じに。
 なんかやられた。
 その愛くるしさに。
 ふわふわの毛並に。


 これで見捨てたら、
 天野からは「人として不出来ですっ!」と言われ、
 名雪からは「だって、ねこさんなんだよっ! 祐一!!ねこさん!」と意味不明になじられ、
 栞からは 「そんなことする人嫌いですっ!」と責め立てられるだろう。

 その捨てられているネコをじっくり見てみる。
 目元がきりっとしていて、見るからに美人さんなネコ。
 ちょっと、吊り上った目は、翡翠を色濃くしたようで美しい。
 毛並はちょっと、ウェーブがかっていて艶やかでキュートだ。

 一目惚れというか、何というのか分らないが、気に入ったので拾う事にした。
 幸い、これから住むアパートには、動物を飼うのを禁止する項目なんてなかったし、コイツには関係ない。
 ちょっと寒そうにしていたし、俺も一人暮らしはイマイチ寂しかったので、拾った。
 捨ててあるのだから、俺が拾っても問題ないだろう?

 そして、新たな俺の家へと向う。
 捨て猫を拾う。
 捨ててあった猫を俺が拾ったのだから、コイツはもう捨て猫じゃないよな?
 でも、未だ家で飼っている訳じゃないから、飼い猫とも違う。
 じゃぁ、拾い猫?
 新たな疑問と腕の中にネコを抱きながら、名前未定のそいつと、こころで会話しつつ家へと急ぐ。



 家へと到着すると、届けられていたダンボールの中からタオルを引っ張り出し、
 まず、そのねこの身体を拭いてやる。
 あまり、汚れてはいなかった。
 おそらく、そう長い事あの場所に捨てられていなかったのだろう。
「俺が通りがかってよかったな。アコは寒かっただろう?」
 と聞くと、
「ミィィィィ」
 と鳴きながら、俺に身体をくっつけてきた。
 親愛行動のつもりらしい。
 俺の言葉も理解しているみたいだし、かなり頭のいいネコだな。

 しまった。
 風呂に入れてやったほうが良かったか?
 でも、ねこは風呂嫌いと聞くしタオルで良いか…………。

 こちらの言葉を、ある程度理解しているのに気付いたので、何をして欲しいか聞いてみた。


「腹減っているか?」
「ミィィィ」
 小さな顔を横に振りながら、鳴くネコ。
 どうやら減っていないらしい。
 減っていたら、温かいミルクでも飲ませてやろうかなと思ったのに―――――残念だ。
 ネコってコーヒー飲んだっけ?
 飲めたらいいのになぁ〜。
 二人でコーヒーを飲む構図。
 なんか、憧れるよなぁ。


「風呂。一緒に入るか?」
「ミャッッッ!」
 凄い勢いで、首を横に振って嫌がるネコ。
 やはり水が嫌いなのかもしれない?
 何とかして水を怖がらないようにしないとな。
 一緒に入るのが一番水を怖がらなくなるよな。

 まぁ、今は良いがな。


「お前は賢そうだし、家のルールは追々、説明すれば良いよな?」
「ミィ」
 ネコはまるで了解しましたと言わんばかりに鳴く。
 賢いやつは嫌いじゃないぞ、むしろ好きだぞ、俺は。



「後しなくちゃいけない事は…………」
「ミィ?」
「そうだっ、名前! お前に名前付けなくちゃいけないよな?」
「ミィ!」
 なんだか嬉しそうに鳴くネコを見ると、俺も嬉しい。
「姓はこの家で飼うし、相沢で決まっているから…………、名前だけだな?」
「ミィ!」

「ええっと、定番で、タマとかミケとか……」
「ミィィィィィ(嫌)!」
「何だ? 嫌か……」
「ミィ(肯)!」
 定番の名前はいやみたいだ。
 まぁ、個性が無いって言えばそうだしな。
 それに、あまりゴロも良くないな。
 全国の相沢たまさんや、みけさんには悪いが………。
 
「意表をついてポチ。なんてどうだ? ヤッパリ嫌か………」
 ネコは今度は何も言わなかった。
 だけど、眼光が心なしか冷たくなったような気がする。

「ピロmkUなんてどうだ?」
「ミィ!!!()」
「嫌なのか!? あのガンダムにもつけられたな由緒正しい名前と俺の乙女コスモの複合した名前なんだが……」
 なんだか、俺が考える度に、眼光が鋭くなっていく気がする。
 否、実際に鋭くなっている。
 これ以上変な名前を考えると、俺の顔に爪で落書きをされそうだ。


「仕方ない。俺の周りの人から、名前をもらう事にしようか……」
「ミィ!」
 それが良いと言わんばかりにネコは声をあげる。
 畜生!
 俺の名づけ方は、そんなに変だっていうのか!

 祐ちゃん大ショック!!!

 あぁ、そう言えば、お前は猫だったなぁ、あんまり賢いもんで忘れそうになったよ。


「じゃあ、適当な所で、アキコ」
「ミィ(否)」
「ナユキ」
「ミャァッァァ!(激嫌)」
 名雪、お前の迷声はコイツにもしっかり伝わっているぞ…………。
 これに懲りたら、自重しろよな。
「ジュン」
「ミャァァァァァァ!!!!(絶嫌)」
 北川、お前の名前は絶対に嫌だってよ……。
 なんか、その名前に嫌いな思い出でもあるのかね?

 さぁ、気を取り直して名前を付けるとしますか!

「マコト、アユ、マイ、シオリ!」
「ミャ!(嫌)」
「じゃあ、サユリ! ミシオ!」
「ミャ!(否)」
「ウグゥ! ダォ〜! アゥ〜! エゥ〜! ハチクマ! ポンタヌ! アハハ〜! ソンナ(以下略)ショウ!」
「ミャァァァァァァッァァァァァァァ!!!!!(怒怒怒怒)」

 
 引掻かれました。
 その奇麗な鋭い爪で、そりゃあ、もう奇麗に五本線が入っていますよ。
 はい、真面目にします。
 だから、爪をそんなに一生懸命磨かないでください、ネコさん。
 お願いですから…………。

「じゃぁ、カオリ?」
「ミャッ!(肯)」
 どうやら、最後の最後で気に入ってくれたようだ。
 これで嫌だったら、どうしようかと思ったよ。

「おまえはこれから、相沢カオリだ!」
「ミャ〜♪」

 ネコを胸元に抱きしめながら、俺はこれからの生活に思いを馳せていた。






 てな感じで、俺の新居には新生活を始める前に同居人ができた。
 ねこだけどな。












こっそりと余談
「ところで喋っても良いぞ、香里」
「ニャッ? もういいの、祐一?」
「あぁ、香里の柔らかな胸のふくらみも堪能した事だしな♪」
「もう、バカね。こんな事で良いなら、いつでもやってあげるわよ―――――」
「あなたはわたしの恋人なんですから♪」

「ところで、何であんな所でネコ耳カチューシャをつけて、ダンボールの中にいたんだ?」
「ふふふっ、貴方に飼ってもらうためよ」
「ご・主・人・様」








後書き
 遅くなりましたけど……夢月さん、HIROさん、40000HITおめでとうございます!!!
 これからも、頑張ってください!
 
 さて、此処を見ていると言う事は、一度、全文を読みましたね?
 では、もう一度、読み返してください。
 ネコの部分を捨て猫かおりんにして!!

 どうでしょうか、楽しんで頂けたでしょうか?

 なんか読み返してみると、すんげぇ〜馬鹿話のような……反省。
 しまった! さゆりんとまいまいの台詞……一行もなし!!


ぐはっぁ!!(鼻血&吐血
ああ、俺の血液が8ガロンほど体外に!?(マテ
真那矢さんSS、どうも有り難うございます(喜
ああ、こんな捨て猫拾いて〜(本気と書いてマジで
今日はいい夢が見られそうです(見るな

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