捨て猫日記 PART2
〜世は並べて事もなし 前編〜

by 真那矢






 カシャッ―

 ニャッ?
 何?
 何の音―――――?

 あぁ、そうか。
 カーテンを開く音だ。
 ご主人様がカーテンを開けて、朝を出迎えている音だ。

 朝日が顔にあたり、意識が次第に浮き上がってくる。
 あぁ、でもねむい。

 早く起きなきゃとか、うるさく言う理性さんはお布団さんの誘惑にのっくあうと。

 うぃなぁー、欲望さん

 しゅんみんあかつきをおぼえず、
 それに――――――――ほら、あたしねこさんだし?

 眠ってても良いじゃない?
 ご主人様が、あたしをやさしく起こしてくれるまでは、ね?

 ねこさんはねむるのがお仕事―――――――
 おやすみなさい。

 スヤスヤ、スヤスヤ。


「カオリ!」
 んにっ!

「ほら、カオリ!」
 んにっ、ごしゅじんさまぁ?

「カオリ、いいかげん起きろよ!」
 まだねむい。
 ねかせてくださいぃ〜ごしゅじんさまぁ?


 暦の上では春とはいえ、ここは雪国。
 朝方は、さむいの。

 お布団のやわらかさと暖かさは、手放すには惜しい。

 それに―――――あたしネコさんだし。


「まだ、起きないつもりか? そっちがその気なら、こっちにも考えがあるぞ!」
 だって、ごしゅじんさま? 
 お布団さんがあたしをゆーわくするんですもの。
 あたしは起きたいんだけど、お布団さんはあたしのこと抱きしめて離してくれないのよ?
 ほんとーよ?


 結論
 よって、あたしはわるくない。
 わるいのは、お布団さんと春のよーきさん、です。


「起きないなら――――――今の格好を写真に撮って大学にばら撒くぞ」
 今の格好? 写真? 大学!?
 
「おはようございます! ご主人様! 今日も良い天気ね」
 祐一の呆れたといわんばかりの顔に、あたしはちょっと傷ついた。
 そんな……あからさまに現金なやつって顔しないでよ、ご主人様?


 
 雪が降る街での相沢家の朝は概ねこんな具合にはじまるのよ。




 
 冷たい水で顔を洗いながら、あたしはとりとめもないことを具現化させる。
 もちろん、頭の中でね。

 妄想、想像。言い方はどちらでも構わないけど考えることは、良い事だとおもう。
 論理的思考は、春眠に囚われ、ぼんやりとした意識をクリアにしてくれるし、
 鍛えないと、脳はすぐに錆付いてしまうから。

 でも、学術的なことばっかり考えるって訳じゃないのよ。
 くだらないこと、とるに足らないことなんかも。
 例えば、毎日の生活についてとか。
 例えば、今日のご飯は何かしらとか、ね。

 そして、今の二人の関係について。
 そこに至るまでの経緯とか……。

 初めて出会った時は、親友の従兄弟、従兄弟の親友それだけの関係だったはず。
 色々なことがあった―――――――――――彼と初めて会ったあの冬は悲しみとか奇跡とか、そう、いろんな事があった。
 それらを経験、体感して、あたし達は普通より親しい友達になった……。

 それが何時の間にか彼があたしの心の隙間に入り込んできて、あたしは彼を好きになった。
 そして彼もまた、あたしの事を少なからず思うようになっていたらしい。

 だから、告白した――――――。
 魅力的な人たちが彼の周囲には多すぎたから。想いが苦しくなっていたから。
 ふられてもいいとさえ、あたしは思っていた。
 心にこれ以上想いを閉じ込める事ができそうになかったから。

 結局、あたしの恋は幸運にも成就する事になった。
 数人の少女の嘆きを背景として。

 時が過ぎ、あたし達が出会い、心を吐露した思い出の場所から巣立つ事になった。
 なんてことはない。ただ、高校を卒業しただけなのだけど……。
 簡単に言葉にするには、アソコには思い出が多すぎた。
 悲しい記憶、楽しい記憶、嬉しい記憶、恥かしい記憶、数多の想いが、ね。


 少し前までは、普通の恋人同士だった。
 今は少し違う。
 端的に言えば家主と居候の関係。
 付け加えるなら、ご主人様と飼い猫?

 あたしとしては、対等でいたかったのだけれども、どうもね。
 どうやら、あたしは惚れこんだら一途というタイプの人間だったらしい。
 彼(相沢祐一のことよ、もちろん)のところに強引に居座ってしまった。
 捨てられた猫のフリまでして、彼に拾われることを望んだの。

 後から考えると少し滑稽ね。
 彼と一緒に過ごしたいからって家からダンボール箱まで引っ張り出して。
 まぁ、それだけ必死だったって言えるかも知れないけど………。

 あぁぁぁぁぁぁぁ、思い返すと今でも顔から火が出そうなほどの羞恥にかられるわ。
 もう! 止め、止め! 朝から、こんな事考えたってしょうがないわ!


 それにしても、あたしは朝に弱いのかしら。
 こんな失態をさらすなんて―――――――。
 ご主人様曰く、『いつもの事じゃないか』って……それはひどいと思わない?
 まぁ、たしかに低血圧気味なのは事実だけどね。
 春のあたたかな陽気の中で、早起き出来る人なんて限られてると思うんだけど……。
 これも、やっぱり言い訳なのかしら?

 朝早くに起きることを勝負とするならば、あたしは圧倒的にご主人様に負けている。
 それは、誇張でもなんでもないれっきとした事実だ。
 彼は、ふだんは冗談好きで勉強嫌いの癖に、生活習慣や食事などの雑務になると、すごく有能な人物になる。

 名雪の従兄弟とは思えないほど、ご主人様は朝に強い。
 いえ、もしかしたら名雪と暮らすことによって朝に強くなったのかもれないわね?
 だって、あの家は名雪以外は皆、朝早く起きるんですもの。
 ご主人様、家主である秋子さんはもとより、居候である沢渡さんや、月宮さんまで。

 そうじゃないと、学校に遅刻してしまうからかしら――――――――――

 興味深い事象だわ。
『第44回水瀬家の謎研究討論 水瀬名雪における起床の疑問』
 研究テーマとしてはちょうどいいんじゃないかしら? 相沢祐一及び水瀬一家研究家としては?

「香里? 早くこないと飯、冷めちまうぞ?」
「いま、いくわ! もうちょっと、待ってて!」
「了〜解」

 ご主人様からのお呼びがかかった事だし、はやく行くとしましょうか。
 一人で考えるより、二人で話しでもしていた方があたしは好きだしね。

 愛しのご主人様を待たせないためにも、はやく身だしなみを整えないとね♪


 今日の朝ごはんは、何かしら♪
 ご主人様のお料理は、すごく美味しいの。

 なんでも、この街に来る前からお母さんに仕込まれたらしく、既に名雪と同じくらいのかなりの腕前を持っていたの。
 それが、一人暮らしをするからって秋子さんにも、しっかり教わったらしくて、今では名雪以上♪

 なんだか、一人の女として好きな人に料理の腕前が負けているのは納得かいかないけど……
 コックさんには男の人が多いっていうし、あたしも、料理の猛特訓中だし、なにより、美味しいご飯さんには罪はないわよね?

 気にしたら、負けよ。
 そう、ココはいつか来る決起の日まで、我慢のときよ、香里!
(ちなみにあたしの料理のレベルは……栞以上、名雪以下ってところかしら……。月宮さんや、沢渡さんは、問題外よ。)

 余談だけど、川澄先輩は、ああ見えて、倉田先輩からご指導してもらっているから栞クラスの腕前なのよ?
 天野さんは……はっきり言って、秋子さん並みに謎な人だわ。
 何で高校生が、お茶の作法から、台所掃除の便利品、スーパーのタイムサービスまで知っているの!?
 普通、知らないでしょ!? そんな豆知識!!!

 あの娘、熟練の主婦よ……年、誤魔化しているんじゃないかしら。



 フン、フン。
 はっ、キッチンから漂ってくるこの匂いは……麗しきお魚さん!?
 ニャッ!! しかも今日のオカズさんは、あたしの大好物のアジの開きさん!?
 はやく行かなきゃ〜!
 お魚さんが待ってる〜♪


 キッチン兼リビングに入ったあたしを待っていたのは、お玉とエプロン装備の祐一 with 頼れる主夫ことご主人様。
 それ以外にも、味噌汁さんの匂いや、お魚さんの焼きたての匂いが、栄養を欲しているあたしの胃を出迎えてくれた。

「おはよう、ご主人様」
「おそよう。カオリ」
「ダメじゃない、ご主人様。朝はちゃんとおはようございます、でしょ?」
「名雪のまねかよ……朝っぱらから」

 皮肉を名雪の真似で返して、さっと食卓に着く。
 困惑したご主人様の顔がちょっと可愛い。
 洗いざらしのジーンズに白いポロシャツ。
 その上からつけた水色のエプロンがこの上なく似合っていて少し憎たらしいわ。
 何故か、新婚さんの主夫の二文字が浮かんだのはあたしだけの秘密。

「ご主人様?」
「はい、はい。おはよう、カオリ」
「はい、よくできました」

 勝利!!
 なんだかんだ言っても、家の中でのあたしの立場は弱い。
 ちゃんと家賃は払ってるし、ご飯も当番制になっているけど……
 転がり込んだ上に、朝に弱いとなると、そうそう強い事は言えないわ。(この家での扱いはペット同然だしね)

 だから、ご主人様に勝つ事ができるのは限られてくる。
 久々の勝利の味に酔いしれなくちゃ損よね?
 
 ………もしかして、あたし、ご主人様に毒されてる?
 以前のあたしだったら、こんな事考えもしないのに…………。

 まぁ、いっか、なんだって。
 今は目の前のお魚さんのほうが大切よね♪
 
 ちなみに今日の朝ごはんは。日本人の心こと白米と、煮干で出汁をとった白味噌のお味噌汁。
 それに、お魚さんことアジの開き。付け合せとしてほうれん草のおひたし。
 で、横にちょこんと置かれている納豆。
 
 うん、日本人らしい朝食の定番よね。
 洋食も嫌いじゃないんだけど、どっちかって言ったら、断然、こっちの方があたしは好き。
 ……………秋子さんの『アレ』が出ないってのもあるけど。
 焼き魚には、白いごはんが合うっていうのもあるしね♪

「今日もごはん美味しいわね、ご主人様?」
「そうか? 俺としては味噌汁の味がイマイチ決まらなかったんだが……そう言ってもらえると嬉しいよ、カオリ」

 お味噌汁の味を確かめながら、答えるご主人様。
 もちろん、雪の町の女の子を一ヶ月で落としまくったと言う伝説をたてたスマイルつき。

 マク○ナルドの0円スマイルとの、違いはその効力。
 営業用の如何にも作ってますって感じのスマイルとは、輝きが違う。
 おなじ無料の微笑だけど、稀少さは全然違う。
 にじみでる優しさが違う、瞳のきれいさが違う、もう比べる事じたい間違いって言い張れるほど違うわ!

 名雪なんか『祐一のえがおだけでごはん三杯はいけるんだぉ〜』なんて言っていたし、ね。
「う〜! 香里、ばらすなんてひどいよぉ〜。イチゴサンデー五杯だよぉ〜」

 はっ、今、名雪の声が聞こえたような……幻聴かしら?



「ん!? どうしたんだ、カオリ? なんか嫌いな物でもあったか?」
「えっ!? うん、なんでもないわよ、なんでも! ただ、ちょっと幻聴が聞こえただけで……」
「大丈夫か? 何なら病院でもいったほうが良いんじゃないか?」
「ううん! 気にしないで、大丈夫だから!」

 ご主人様が、心配そうな顔をして私を見つめてくる。
 彼はとっても優しい。
 博愛……とでも言うべきかしら?
 見知らぬ相手であっても優しさを、見知った相手ならば、最上級の優しさを。
 自然と分けてあげられるそんな人だ。
 その上、去年の冬は病院にお世話になる人が、大勢いたからそういうのに敏感になっている。
 
 彼の優しさに、あたしも何度も救われた。
 妹の事であったり、親友の事であったり、様々な悩みで。
 でもね……初対面の可愛い女の子が困っていたら、すぐさま手を貸すのは、ちょっとね。
 しんぱいになってくるのよ、色々と。


 ちなみに、女の子を落としまくったていうのは誇張じゃなくて、事実なんだから。
 嘘だったらあたしがどれほど楽か………。
 ハァッ……鈍感でなおかつ、理不尽なぐらい女の子から好かれる彼氏を持つと、つらいわ。






 〜つづく〜



後書きというか中書き
 すみませぬ!! ひじょーにすみませぬ!!!

 記念HIT遅れてしまい申し訳ございませぬ!!!

 かおりん、ほのぼのしながら壊してしまって申し訳ございませぬ!!!

 しかも、前後編に分けてしまって申し訳ございませぬ!!!!


 こんなのかおりんじゃねぇ、と思われる方、御叱りごもっとも!!!
 なんだか手が滑ったのでござるよ〜。
 書けぬ、書けぬと思いつつキーボードに向っていると、あら不思議、いつの間にかこんな物が………。
 
 ひじょーに申し訳ございませぬ!!!

 内容は置いておくとして……(痛烈に批判を浴びそうですが……)
 遅ればせながら、夢月さん、HIROさん 五万HIT おめでとうございます!!!

 これからも頑張ってください!!!

 以上。
 後編の後書きに続く……
〜後書き〜byHIRO
え〜と
その
ハァ〜(息を大きく吸い込んでるらしい

………

……



ブハッ!?(鼻血

うう、5ガロンほど鼻血が(汗
こんなすばらしいSS、どうも有り難うございます
一言で感想を言うと――
私かおりん食べれるお〜(マテ
――こんな感じです(オイ
後編、非情に楽しみにしています!!

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