「まずは第3チーム、舞達から潰す」

 なぜ? と言う表情で二人が俺を見る。

「倉田先輩達の方が近いんじゃないの? それに北川君達のチームも。わざわざ戦場を対角的に移動する危険を犯さなくても」

 うむ、いい意見だ。之が水瀬シスターズならこうはいくまい。

「佐祐理さん達を最初に狙わない理由が二つあるんだ」

 俺は見つからない程度に声のトーンを押えてその説明を始めた。

 

 

さばいばるげ〜む・震える山、後編

 

 

「恐らく佐祐理さん達は俺たちのほうへ進軍してくるだろうからだ。無論さっき香里が言った理由からだな。今回のように人数が同じな小隊単位での戦闘で正面からぶつかり合うと消耗戦にしかならないんだ。それを嫌って佐祐理さん達の方へは進軍しない。これが一つ目の理由」

 OK? と表情で問う。

 二人の表情には十二分に理解の色が伺えた。

「んで、二つ目の理由。こっちの方がわかりやすい理由なんだが……真琴、栞、あゆ、名雪はトリガーハッピーだ。その中でも特に真琴がな。と言う事は時間が経てば経つほど残弾は少なくなる。少しでも被弾の確率が減るわけだ」

 二人がなるほどと納得する。これが真琴やあゆだったら……そ、それは置いておこう。

 ま、こっちの説明は省いたが。北川達を狙わないのは奴らが経験者だからだ。

 それに恐らくあのでかい荷物はMINIMI。SAW(分隊支援火器)だから無論多弾マグはOK。ボックスマガジンを付けていたとしたら約4000発。

 多分奴らはそれを使って舞たちを待ち伏せしてるだろう。いや、むしろ俺たちをだな。

 佐祐理さん達と俺達が戦闘を始めたら舞達をMINIMIを使って押えこみ、残りの二人が俺達を攻撃に来るはずだ。

 もし俺が同じ装備があるとすればそうする。

進軍方向

 

 

ガサッガサッ

 進軍方向の左手側から音が響く。方向、時間からして間違い無く舞達、第3チームだ。

「美汐」

「はい」

「今から舞達の左手側に迂回しろ。香里と俺はこのまま舞達にしかける」

「はい」

 音を立てぬよう美汐が慎重に迂回を始める。

「サプレッサーを忘れるなよ」

 俺が掛けた言葉に、美汐は力強く肯いた。

進軍方向

「さて、香里。俺はあゆをやる。名雪は任せるぞ?」

「任せて」

 この距離では舞のイングラムの命中精度は無いに等しい。近づかれるのに気を付けて、遠射の効くあゆと名雪を先に始末だ。

「3と同時に仕掛ける」

「了解よ」

「1……2……3!!」

ザッ

タラララララッ!

「うっうぐぅ!? ヒット(涙)」

「わっ!?」

「!?」

 三者三様の反応だな。ま、何はともあれあゆをヒットだ。さすがに一発目では名雪をヒットできなかったか。香里にダットサイトを付けさせとくべきだったかな。

 にしても、さすがは舞。突然の襲撃にもとっさに反応したな。こりゃ骨だ。

 次いで俺は舞に仕掛ける。

タララッ!

 ちぃ、さすがは魔を狩るもの。装備が軽いと言うのもあるんだろうが、こんな場所でも迅い。

ガァァァァァ!!

 舞が応射してくる。さすがはガスブローSMG。発射のサイクルが半端じゃない。逆に言えば弾切れの早い諸刃の剣なんだろうが、このプレッシャーは笑えないな。

 

 

タララッタララッ!

 意外と当らないものね。映画とかだとビシバシ当ってるのに。

 それにしても、相沢君の言ったとおりトリガーハッピーね。

タララララララララッ!

 ほぼ断続的に撃ってくるわ。

 

 

「この辺がよさそうですね」

 少し小高くなっていて、戦場が見渡せるような場所。

 相沢さんが言っていた場所にほぼ一致します。

 先ほどまで構えていたサイドアームを腰に吊るし、背負っていたライフルを用意します。

 銃口にサプレッサーをねじ込み、スコープカバーを外す。

 音を立てぬようプローン(伏せ撃ち)の姿勢を取り、スコープを覗く。

 美坂先輩が大分苦戦しているようですね。

 すいません、水瀬先輩。次に動きが止まったときに決めさせていただきます。

 

 

 そろそろいい頃よね。

「俺達の仕事は舞達の動きを止める事。そうすれば美汐が決めてくれる」

 相沢君の言葉が脳裏に思いだされる。

 何もあたしが当てる必要は無い。弾の切れたマガジンをチェンジ。

 名雪、次で決めさせてもらうわよ。

ザッ

タラララララララララララララララッ!

「わっ!?」

 慌てて名雪が木の影に逃げ込む。それでもあたしは連射を続ける。

 名雪の動きは止めたわ。天野さん、頼んだわよ。

「え!? ヒット」

 名雪がヒットコールを上げる。何処から撃たれたのか気が付いてないみたいね。

 ともかく名雪の始末は完了。後は川澄先輩だけね。

 

 

タララッ!

 そろそろ佐祐理さん達と北川達が来るころだな。

 いったん下がらないと挟まれるな。

 南……いや、北に抜けて佐祐理さん達を北川達とで挟み討つか。

「香里、いったん美汐と合流して北に抜けるぞ」

「え、なん「10m程進んで後を振り向いて俺を援護。俺が香里に合流したら俺が援護する。また10m進め。後はその繰り返しだ」

「わかったわ」

 いい返事だ。戦場ではこういうやつが生き残る。

「よし、いくぞ」

進軍方向

 

 

「ヒット」

「ヒット」

 美汐と合流するとほぼ同時に二人のヒットコールが響いた。

 舞と久瀬か。これで舞達は全滅、北川達は残り二人。

「美汐、佐祐理さん達の西へ回りこめ。後はさっきと同じだ」

「わかりました」

「香里、残りのマガジンは?」

「今挿してるいるのを合わせて二本よ」

「俺と同じか……後はグレネードが二個」

 きついな。思った以上に弾を消費した。

「美汐、MP5、クルツは一発も撃って無かったよな?」

「はい」

「なら香里にマガジンを」

 これで香里が三本か……

「これからは時間が勝負だ。一気にいくぞ」

「ええ」

「はい」

進軍方向

 

 

 タララ、タララと銃声が響き渡る。

 佐祐理さん達と北川達の戦闘音だ。気にせず戦場を駆け抜ける。

ザッ

「な!? しまった!!」

 通りすぎた茂みの中から突然真琴が飛びだす。

「あはは、もらったわよぅ!!」

タララララッ!

 真琴がトリガーを引くとほぼ同時に、俺はとっさに地に伏せる。

 やばい。香里、美汐!?

「ヒットです」

 くそ、美汐がヒットか。香里は!?

タララッ!

「あぅ〜ヒットよぅ」

 お、おお! ヒットされるどころかヒットした!?

「やるな、香里」

「ありがとう」

 これで残り三チーム全部が二人ずつ。となればMINIMIを持ってる北川達が一番有利だな……

 ま、ようは戦い方だけどな。

 

 

「香里は西に回りこめ。俺は東に回りこむ。回りこんだらヒットアンドアウェイで佐祐理さん達をかく乱してくれ。そっちに気を取られた瞬間、俺が強襲する。これを使ってな」

 グレネードを軽く振ってみせる。

「了解したわ」

「強襲する事に意味があるからな。それまで、見つからないように行動してくれよ」

進軍方向

 

 

 足音をしのばせ、気配を殺し、両チームの側面に回りこんでいく。

 まずグレネードでガンナー(MINIMIの砲手)を始末。そのまま近くに居る敵にライフルを一斉射。その間にグレネードを装填。うまくいくか……

タララッ!

 今までの中で一番遠くから銃声が響く。香里が攻撃を始めたようだな。

 悩んでる暇は無いな。一気にいく!!

ザザザッ

 ガンナーは斎藤か。とっさに振り向こうとしているが、MINIMIは重いぜ。もらった!

ガオォンッ!

 大きな砲口から吐き出された、165発のBB弾が斎藤を襲う。

「ヒット」

「佐祐理もヒットです」

 佐祐理さんも近くに居たのか。こいつはラッキーだ。

タララッ!

「チッ」

 攻め込もうとした出足を止められ、北川が舌打ちする。その間に俺は障害物を探し、その影に隠れる。

 ヤバイな。残り1マガジンになっちまった。

進軍方向

 

 

 けたたましい音に続いて、二人のヒットコールが聞こえた。

 木々が濃すぎて確認は出来ないけど――

「どうやら相沢君の作戦が成功したみたいね」

 ――ヒットコールは倉田先輩と、多分斎藤君。

 残りは栞と北川君ね。銃声が続いているし、いまだに相沢君は北川君と戦闘中ね。

「えぅ〜わからないように隠れているお姉ちゃんなんて嫌いです」

 声から判断して、大分近づいてきているみたいね。だけどね。

「はぁ、我が妹ながら……」

 そんな事を考えていたら、あと少しで栞が射程に入る距離に進んでいる。

 もう少し、あと3m。

タンッ!

「え、きゃっ!?」

 しまった。外した!?

 弾切れを意識してセミオートにしたのが失敗だった。

「そこですか!!」

 タララララララララララッ!!

 くっ、弾切れなんて関係無いように連射してくる。

 ほんとトリガーハッピーね。でも、弾切れまで逃げきれればこっちのものよ。

 

 

「チィッ、しくじった」

 ラストのグレネードを外してしまったのは痛恨のミスだ。残りの弾数は20発程度……

タララッ!

 容赦の無い銃撃が俺の思考を中断する。

「慌てるな、こう言う時こそ冷静になれ。考えろ、何か手はあるはずだ」

 残弾の少ないライフルと、後はハンドガンを残すのみ。

 アレしか手は無いか……

 作戦を決めたら後は実行するのみ。こういったのは思い切りが肝心だ。

 レッグホルスターからハンドガン、IAを引き抜き、北川に向け連射する。

ガンガンガンガン……ガンガッ!

 スライドがホールドオープンする。弾切れ。

 マガジンチェンジ。慌てたように、しかし時間を掛けて。

 それを見た北川は一気に間合いを詰めてくる。

 かかった。

 やつはもう俺にはハンドガン以外に武装が残ってないと思っているはずだ。

 間合いが詰まった瞬間、残り全弾を叩きこんでやる。

 やつに見えないように、ライフルのグリップを握りなおす。

「もらった!」

「ああ、俺がな!!」

タラララララララララララララララララララッ!

 

 

「最後に功を焦り過ぎたな」

「全くだ」

 ゲーム後の反省会。俺の言葉に北川が苦笑を返す。

「ま、それは置いておいて。久々のゲームは楽しめたか?」

「ああ。最後はお粗末だったけどな」

「それはまぁな(苦笑)」

 最後、俺が北川をヒットした後、香里の加勢に行こうとしたら栞のヒットコールが響いた。一緒に痛みに耐える息使いも。

 どうも弾の切れしたメインアームを捨てサイドアームをホルスターから引き抜くとき、自分の足を撃ってしまったらしい。

 たく、悪い見本だな。撃つまでセーフティはかけとけっての。

 ま、意外と実銃の世界でも起こる事故ではあるらしいが。

 結局それで今回のゲームは終了、俺達の勝利となったわけだ。

「次回はCQBなんてどうだ?」

「室内フィールドあるのか?」

「ああ、いいところがあるぜ」

「なら決まりだな」

 今度はCQB――クローズド・クウォーター・バトル――か。

 装備どうするかな……

 

 

〜野戦編・終〜